31話 ライド製作
ログインし、いつもと変わらない拠点のベッドで目が覚める。
「皆おはよ。…………なんか狭くなったなぁ」
拠点を見渡して思ったのは、テラ、レラ、ドラの体が大きくなり、さらにミラ、セラが加わったことで、ただでさえ小さく狭かった拠点が一層狭く感じるようになった。
外に出ても、拠点の近くには祭壇や複数の作業台、収納箱が乱雑に置かれている。
テラの体が大きくなったことで作業台も大きさが変わり、余計に拠点周りが狭く感じてしまう。
「拠点の改築と作業小屋みたいなの増築しないとな……」
しかし今日からいよいよライドの製作に本腰を入れようと思っている。
その為、拠点周りの改良は後回しだ。
「よっしゃ!とりあえず朝までやってみるか」
まず、以前ライド関連のクエストをクリアした際、ライドモンスターは一体しか所持出来ないとゲーム内で説明があったのだが、それは正確ではなかった。
本来、プレイヤーはライドの所持枠を3つ持っている。
しかしモンスター型ライドは手に入れた段階からかなり高性能な為、所持枠を3つ全て消費してしまうようだ。
つまり製作するマシン型なら3つまで所持できるということだ。
さらにマシン型も冒険者ギルド内のショップで買う事は出来る。しかし、見た目はそのまま簡素なトロッコ、速度もプレイヤーが走るより少し速いくらい、少しの段差で躓き停止、方向転換が困難とかなり質が悪い。
だからこそ製作するのだが、他のアイテムのように製作出来ず、かなりややこしい。
ライドはまず設計図から作ることになるのだが、以前テラが作ってくれた【設計台】を使用して作る設計図とは異なり、ライド専用の設計図を使用する。
その設計図に、ライドには必須の動力源パーツ、エンジンを軸として作っていくのだが、このエンジンさえもアイテムとして作らなければいけない。
そしてエンジン、車輪、座席があれば一応ライドとして完成はするのだが、こうなるとギルドで売っているトロッコの方がまだマシだ。
ここから性能を上げていくには、エンジンその物を改良したり、パーツを増やす必要がある。
そしてここからがライド製作のややこしい部分でもあり、面白さでもある。
ライドに使うパーツは全てオリジナルレシピとなる。その為パーツの素材、形状も自分で決める事ができ、それが性能に繋がっていく。
一見すると専門知識がないとライド製作は無理な事のように思えるが、俺もメカニックデザイナーなどではないし、好きが講じて車やバイクを分解したり組み立てたり出来る訳では無い。
そんな俺でもライド製作が可能な理由はちゃんとあった。
ライド製作において最も大切なのは発想力だ。
実際のバイクなどを再現することも可能だが、動力源は魔法で動いている架空の物体だ。
そんな架空の物体に対して、現実的な役割や意味を考える必要はほとんどなく、パーツその物の設定を自分で考え、意味を持たせれば良いのだ。
余程チグハグでない限り、システムAIがサポートして形状などはデフォルメしてくれるため、突出した成形技術なども必要ない。
ライド製作はプラモデル製作によく似ている。
例えば人型ロボットのプラモデル。
武装や外見を好きに改造していく過程で、その改造に必要なジョイントパーツや、意味を持たせる為のパーツを自作したり、別のパーツと組み合わせたりする、いわゆる「俺プラモ」にライド製作はよく似ているのだ。
技術的なことはスキルが解決してくれる為、発想力があれば良い。
俺が選んだエンジンの素材は、鉄と下級エレメントのレアドロップである魔石の欠片だ。
これらを素材に使った魔導エンジンを軸にパーツを増やし、ライドに組み付けていく。
さすがに何も参考にする物がないと、想定するパーツその物が作れないため、自動二輪を参考にしつつファンタジー要素を加えた形状にしようと思い、ログアウト中に考えていた。
そして仕事中に見つけた一番星であるシリウス(天狼星)から狼を連想しデザインに組み込んだ。
狼の膨らんだ尻尾をイメージして、3本出しマフラーを後輪左右から出してみたり、狼が走っている姿を連想させるフォルムにしてみたりと、下手な絵ながらも完成図を描いている。
俺の使う予定の魔導エンジンでは、鉄の上位互換である鋼の性能を引き出せず、逆に性能が落ちてしまう為、今回は鉄を主に使用している。
そして完成図に従い、パーツを構成、成形し、設計図上に組み立てていく。
朝を過ぎ、昼になっても完成までは程遠く、1日では無理だと判断し、昼からはレベル上げ、また夜にライド製作という日々が数日続いた。
そして、やっと設計図が完成という所で、とある出来事が起きた。
それは日課であるホームの採取をしていた時だ。
皆と一緒に採取ポイントを巡っていると、レラが未だ見たこともないような喜び方で採取物を俺に見せてきた。
「銀じゃないのか?…………魔晶石?初めて見る素材だな」
レラのスキルのおかげで採取出来た魔晶石は2つ。
それを見たテラも大喜びし、魔晶石と鋼を溶鉱炉に入れ、新素材である【魔鋼インゴット】を作り出した。
この魔鋼は鋼以上の強度があり、魔法適正まで備えている素材だ。
そしてこの魔鋼をテラが欲しがり、【魔鋼のピッケル】を作り出した後、再びホームにある洞窟へ向かう。
「もしかしてこのピッケルで新しい採取ポイント掘れるのか?」
コクコク
「マジか!そりゃ助かる」
魔鋼ピッケルで新たに採取出来たのは3箇所。この3箇所からは銀と魔晶石が採れた。1度に採れる鉱石の量もこのポイントでは増えている。
「まだ採取出来ないポイントがあると思うと、この洞窟凄いな……マジで宝の山だ」
しかし肝心の魔鋼の用途が俺には分からない。
クラフターの書を見ても結果は変わらずだ。
「また前みたいにプレイヤーの店でも覗いてみるかな……」
プレイヤーが多くログインしている朝まで時間を潰し、テラと2人で街に出る。
進化の宝玉の入手条件がパーティから外したということ以外ハッキリと分からない為、検証も兼ねて今回はテラ以外留守番をしてもらう。
商品を出している店はかなり多いが、それに反しプレイヤーの数は少ない。
北区はプレイヤーのアイテム売買が主となる区のため、窃盗行為に防衛システムが作動している。
駆け出しが多いこの街に張り付いて商売をする理由もないため、この街では商品だけを出し、買いたいとお知らせが届けば転移などでプレイヤーがやってきたり、無人販売なども出来る為、自身は別の街で商売をするプレイヤーがほとんどだ。
そんな北区を歩いていると、声をかけられた。
「ようチャンピオン、ウチ見ていかないか?」
「あぁ…………素材系か」
「おぅ!珍しいのあるぜ?」
レアドロップイベントで集められた素材などが結構多く売られている。
その中で見たことがない素材をプレイヤーから提示される。
「これ、ユニークモンスターのレアドロップなんだ。今のところ売ってるのは俺だけだと思うぜ?」
―ズンドコの強心臓―
「えぇっ!?アイツ倒したのか!?凄いな」
聞いてみると、このプレイヤーが倒したのではなく、倒したプレイヤーから買い取ったそうだ。
「今なら安くしとくぜ?」
「持て余してるだけだろ?」
「ははは、まぁその通りだ……俺を助けると思って買ってくれねぇか?」
確かに俺ではズンドコは倒せないし、戦おうとも思わない。買っておいても良いかもしれないが迷ってしまう。
そんな迷っている俺の足をバシバシとテラが叩いてくる。
「なんだ?欲しいのか?」
コクコク
「うーーん、しかし用途がなぁ……」
渋る俺を他所にテラは魔鋼インゴットを取り出し、プレイヤーに見せている。
「おっ?召喚者か?…………こりゃぁ……見たことないアイテムだな」
俺はなんとなくテラの意図を察する。
「交渉だ。これは鋼の上位互換になる素材だ。これをアンタに渡すから、レアドロップアイテム安くしてくれ」
コクコク
プレイヤーは魔鋼インゴットをマジマジと観察した後、交渉は成立した。
「それでも5万Gか…………20万からだからかなり安くなったけど……」
そうボヤき、他の店を回ろうと歩き出すと、テラが帰り道を指し急かしてくる。
テラがここまで訴えかけてくるのだ。何かあるのだろうと、ホームに戻る。
するとすぐにテラがクラフターの書を開き、1つのアイテムを指差す。
「なになに?…………【魔導エンジン・ズンドコハート】っ!?マジかよ!!!」
なんと買ったズンドコの強心臓と魔鋼を素材に、魔導エンジンを作ることが出来るようだ。
「おいおいおい、性能が今のより段違いだぞ…………こりゃ設計を最初からやり直しだな」
エンジンが新しい物に変わった為、設計の幅が更に広がり、パーツなども見直しが必要になった。
読んで頂きありがとうございます。




