24話 武器別バトルアリーナ・前編
今日はいよいよイベントだ。
俺が出場するガンズブレイド部門は午後から予選があり、明日はトーナメント1、2回戦、明後日に準決勝、決勝が行われる予定だ。
ジョブ別のイベントも同様の日程で行われる。
今回のイベントに参加するプレイヤーはLv10相当のステータスに統一され、ジョブの補正やエクストラスキルなども使用出来ないが、アーツだけは全て使用出来る。
装備も武器は初期の物、防具も運営が用意したセットを選択し装備することになる。
PvPイベントではあるが、今回のイベントの報酬は控えめで、5位まで獲得できる。
ガンズブレイドでは1、2、3位に初期武器に毛が生えたような攻撃力に、装填数+1の特殊能力がついた見た目が少し豪華な強撃型の武器と賞金。4、5位は賞金のみだ。
一方のジョブ別はというと、ステータスや使用武具に関しては同じだが、そこにジョブ要素が加わる為、難易度が上がる。
例えば戦士別に分かれても、武器アーツで魔法を使える者もいれば、回復を使う者もいる。
その為、武器別アリーナに比べ報酬は幾分か豪華になっている。
とはいえ、このイベントの主な趣旨はアピールだ。
従来のゲームなら日程と時間を指定されたPvPイベントはなかなか実施出来なかった。
平日に1日かけて行われるイベントなど、殆どの者達が参加出来ず怒り狂うだろう。
だがAnotherWorldは睡眠中に遊べるゲームだ。
例えリアル時間の午前3時に就寝したとしても、ゲーム内ならそこから24時間遊ぶ事が出来る。
仕事であっても、特別な仕事を除き徹夜などしている者はすでに存在しない。むしろ徹夜していると問題になり、会社に調査が入る事態まで発展するほどの出来事だ。
その為、ゲーム時間のイベント開始までに寝れば全員がイベントに参加可能なのだ。
今回のイベントではこういう点も含めてアピールされる事になる。
ともあれ、ログインした俺は予選まで半日ほど時間がある。イベント期間中は冒険などに出掛けず、ホームで機工士のスキルレベルを上げながら過ごす予定だ。
というのもプレイヤーの生産ジョブスキルはアイテムを作ることが1番効率よくレベルが上がる。
戦闘で得た経験値でも上げることは出来るが、取得経験値は10分の1となり、反対にアイテムを生産するとジョブスキルに作ったアイテム相応の経験値が入り、プレイヤーレベルや戦闘ジョブスキルに10分の1の経験値が入るという仕様だ。
「まずはホームの採取からだな」
ホームにある木材と草原の採取ポイントを巡り、そして洞窟に行く。
基本的にホームで採取する時は全員行動だ。採取するのはレラだが、俺がレラに付き添っていると、テラやドラもついてくるのだ。
この時、またもやテラが超便利なアイテムを製作してくれた。
【転送収納箱】というアイテムで、この収納箱に予め入れておいたアイテムを再度入手した際、勝手に転送収納箱に納めてくれるというアイテムだ。
特に鉱石類のアイテムなどは採取で集めるのが基本だが、別途保管し忘れた際に全ロスなどしたら目も当てられない。
いちいち収納箱などに毎回入れる手間が省けるため、とても便利なアイテムだ。
早速、転送収納箱に鉱石類を入れ、インベントリを整理し洞窟で採取を行う。
入口のポイントから順に巡り鉄をザクザク採取していると、あるポイントで採取した後、レラが大喜びしてアイテムを俺に見せてくる。
「ええっ、銀っ!……ここで出んの!?マジか」
銀は始まりの街周辺では採取出来ないアイテムだ。それがレラのスキルも相まって1度の採取で3つも手に入れる事が出来た。
さらに他のポイントでも銀が採取でき、1日で計6個の銀が採取出来た。
「もしかして超絶当たりのアルカナか?」
アルカナの鍵が鑑定ガチャなのか、固定なのか分からないが、俺が手に入れた鍵はかなり有能だったようだ。
採取出来ないポイントはそのままに、草原に戻るとテラが早速作業を始めた。
出来上がったのは、大量の鉄を素材に作る【溶鉱炉】だ。
これもホームに設置し使用するのだが、用途としては鉄などを【インゴット】という別のアイテムに変えるため使用する。
鉄は鉱石そのままでも素材として多く使われるが、インゴットにすることで用途はさらに増える。
だが、テラは溶鉱炉に【鉄】と手持ちの【銀】全てを放り込んだ。
そしてトントン、カンカンと作業し、出来上がったのは【鋼のインゴット】だ。
「マジかよ!鋼なんてトッププレイヤー達が今装備に使ってる素材だろ。凄いぞテラ、レラ!!」
銀を採取したレラと、鋼を作ってくれたテラを褒める。
テラは鼻を指先で擦り、ドヤ顔で胸を張っている。レラは俯いてモジモジしているが尻尾をユラユラ揺らし嬉しそうだ。
鋼のインゴットを手に入れる事は出来たが、他の素材が足りないため色々作ることは出来ないが、鋼のインゴットその物が今は貴重品だ。使う時がくるまで大事に保管しておこう。
その後は、テラに作ってもらった【精密作業台】というアイテムを使い、すでに始まっている他の武器の予選を見ながら、機工士ジョブで作れる【ネジ】をひたすら製作する。
作業台をテラが作ってくれたおかげで通常の物より品質が上がり、この作業台を使うだけで製作アイテムの品質が僅かだが上昇する。それを利用しネジを量産していく。ネジは素材が鉄のみで作れる為、レベル上げはなかなかに順調だ。
そして昼前に皆でご飯を食べに出かけ、予選が始まるまでホームで待機する。
【ガンズブレイド別バトルアリーナに出場するプレイヤーにお知らせします。予選を開始致しますので、カウントダウン後、特設ステージへと転送します】
「おっ?いよいよか!……頑張ってくるから応援宜しくな!」
召喚者達に見送られ転送が始まる。
転送された場所は真っ白な空間で、俺以外には誰もいない。その真っ白な空間の空中にはさらにカウントダウンが表示されている。
「カウントダウンの後、予選が開始か!」
この真っ白な空間は待機場のようだ。
PvPコンテンツをプレイする際、プレイヤー達は言葉を交わす事が出来ない仕様になっている。
これは以前、俺がガンズブレイド2を使って散々悪口を言われた事のような、プレイヤー間のいざこざを無くすための措置だ。
負ければ腹が立ち暴言を吐いたり、相手を貶したり、あるいは打ち合わせをしたりなんかも考えられる。
そういった事がないように、対戦中はプレイヤーの言葉が聞こえないようになっている。
さらに、対戦が始まり、プレイヤーが全く動かないような事があれば、何らかのトラブルと判断し試合は仕切り直しとなる。
加えていわゆる八百長なんかがあった場合、そのプレイヤー双方のチャットログを徹底的に調べ挙げられ、証拠が見つかればアカウント停止などの罰則が科せられる。
「ホントこういう仕様を見ると運営に遊ばせて貰ってるって実感するなぁ」
そんな事を考えているとカウントダウンが終わりそうだ。
カウントダウンが終わり、再び転送が始まった。そして巨大な円形の闘技場に立っているのが分かった。
予選の内容は、20人のプレイヤーが闘技場に集められ行われるバトルロイヤルだ。
闘技場から落ちるか、HPが0になると脱落となり、最後の1人が明日からのトーナメントに出場出来る。予選は同時に複数ヶ所で行われるようだ。
俺が装備するのはいつものスタイルに、運営から支給された軽防具だ。
闘技場にいる他のプレイヤー達の装備を見渡してみる。
「やっぱガンズタンク構成が多いな」
ガンズタンクとは、そのままなのだがタンクの役割を持つプレイヤーがガンズブレイドを装備した呼称だ。
ガンズブレイドは防御無視が可能なため、耐久にステータスが偏りがちなタンクとは相性が良い。
自身は防御を固め、ガンズブレイドの防御無視を狙って固定ダメージを与える事が出来るため、現在タンク達に人気のスタイルとなっている。
ざっと闘技場を見渡す限り、ガンズブレイドに盾、重装備をしたプレイヤー、ガンズタンクがかなりいる。
そうこうしていると、アナウンスと共に闘技場への侵入を阻んでいた光のカーテンが消え、予選が始まった。
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