22話 イベント前日・2
アイテムを盗まれるという気分の悪くなるイベントの為、俺もかなり口調が荒くなってしまったが、NPCの後に続き小屋に入る。
小屋の中は俺の拠点と同じで間取りなどはなく、ベッドや机などが置かれている。だが、その部屋の中に異質な扉が不自然に設置されているのが見えた。
その扉には鎖が何重にも巻かれ、その鎖を結ぶように大きな錠がつけられている。
部屋の奥に進むと、老人が俺の盗まれた鍵を投げるように渡した後、椅子にドカッと腰掛けた。
『お前さん、その鍵は何に使うか知っておるか?』
ここで老人と、システムメッセージによる鍵の説明が始まった。
要約すると、この鍵を使ってホームの拡張アイテム、アルカナを手にいれることが出来るようだ。
この老人に鍵を鑑定してもらい、その後、錠がついた扉に鍵を挿せばアルカナの世界に行けるようになる。
そしてその世界にあるアルカナのコアに再び鍵を挿せば、アルカナとしてアイテム化出来るようだ。
―アルカナまとめ―
・老人に鍵を鑑定してもらう。鍵により鑑定額が変動。
・鍵によって、行けるアルカナの世界が決まる。
・アルカナの世界にあるコアを様々な方法(ボス討伐、モンスター全滅、NPCと対決、謎解き、など)で出現させる。
・鍵を挿せばその世界がアイテム化。
・アルカナの世界に留まれるのは1時間。
・アルカナの世界で死んでもデスペナルティーは発生しないが、死ぬと世界から強制的に脱出させられる。
・アイテム化すると鍵は消滅し、アイテム化するまでは何回でも使用出来る。
・戦闘になった場合、敵のレベルはプレイヤーと同じになる。
「なるほど……アルカナ関連のイベントだったか……」
『鑑定はしてやる。その代わりだが、手に入れたアルカナをワシに見せて欲しい』
「見せたあとは?」
『お前さんの好きにすれば良い。ワシは数々のアルカナを見たいだけじゃ』
「分かった。それで鍵の鑑定額はいくらだ?」
『ふむ…………この鍵だと10万Gは頂くとしようか』
「たっけぇな…………いや相場が分からんけど……分かった、鑑定してくれ!」
お代を払い鑑定してもらう。
『これは【輝石の洞窟の鍵】じゃな。ほれ』
そう言って鍵を手渡される。
「つまりこの鍵を使って手に入るのは、輝石の洞窟ってアルカナになるわけか………」
この老人NPCの小屋も24時間利用出来るようで、時間帯は気にしなくて良いようだ。
そしてせっかくなので、このままアルカナの世界とやらに行ってみることにした。
錠に【輝石の洞窟の鍵】を挿すと錠が外れ鎖が解かれていく。
それと同時に召喚者達がライドに乗った時の様に、俺の中に吸い込まれていく。
そして扉が自動で開き、俺は扉に吸い込まれるように中に入った。
目を開くと、すでに洞窟の中のようで、周囲には淡く光る色とりどりの水晶が生えている。その水晶のおかげで視界は良好だ。
「皆はっ!?…………完全ソロってことか……」
召喚者達が出てくる様子はなく、アルカナの世界はプレイヤー、ソロ専用のようだ。
「コアを探さないといけないんだよな……」
ゆっくりと洞窟を進むが、特に分かれ道などもなく、奥へと進む。
そしてかなり大きな広場となっている空間が見えた。その空間の中央には巨大な水晶が幾重にも重なった塊が見える。
「最初からボス討伐パターンか?…………まさかぁ」
広場に足を踏み入れた瞬間、周囲に光のカーテンが引かれる。
そして中央の水晶がパリーンと砕け、その水晶の下にいたモンスターが首を持ち上げ、肢体を起こし、翼を広げ咆哮を上げる。
「クリスタルドラゴンLv20……マジかよ」
Theドラゴンといった容姿だが、鱗や翼膜が水晶のようになっており、とても美しいモンスターだ。
予想外のボス戦となり、慌てて武器を構える。
直後、ボスがノシノシと近寄ってきて前足を振り上げる。
特殊アクションによる高速移動で横っ飛びに躱すが、ボスが体を捻り尻尾による攻撃を仕掛けてくる。
直撃は躱したが、掠ったようでHPは1割ほど削られ、掠った左肩にはボスと同じような水晶が結晶となり、付着している。
(デバフか?……ホントにLv20かよ)
ライドクエストの時に戦ったボスもLv20だったが、クリスタルドラゴンは比べ物にならないくらい強い。
動きは素早くはないが鋭く、かなり殺意が高めだ。
そんな事を考える間もなく、ボスが大口を開け光を集めている。
そして勢いよくレーザーのようなブレスを放つ。
すぐに躱すが、ボスが首を振り俺を狙い続け、ブレスが追いかけてくる。
ブレスがおさまった後一息つく間もなく、ボスが翼を広げると鋭い水晶が空中に浮いているのが見えた。
元より俺は遠距離攻撃をしてくる相手が苦手だ。
俺に遠距離攻撃できるアーツもなく、近づかなければ攻撃出来ない。
飛んでくる水晶を被弾覚悟でボスの懐に飛び込み、数発で被弾を抑え、前足に一撃入れる。
だがすぐにボスが反対側の足を持ち上げ反撃してきた。
ジャストガードやパリィを無理に狙わず、前足による攻撃の空振りの隙をついて、巨体に潜り込んで反撃しようと思い、ギリギリで躱し、一気に巨体の下に飛び込んだ。
「ぐっ…………マジかよ」
空振ったボスの前足は地面を大きく揺らし、揺れた広範囲の地面から無数の鋭い水晶が突き出し俺を貫いた。
水晶に貫かれ、俺が動けない隙にボスはザッと飛び距離をとる。
そして口に光が集まり…………
…………
……
…
「はっ!!…………あれ?」
気が付くと老人の小屋に戻っており、召喚者達が心配そうな表情を浮かべ俺に寄り添っていた。
『失敗したようじゃの……』
「負けちゃったか…………くぅー、アイツ強かったなぁ」
惨敗も惨敗、一撃しか喰らわせられなかった。
いきなりのボス戦で動揺していたのは間違いないが、それを差し引いてもいい勝負が出来たようには思えない。
加えて回復アイテムなんかも準備してなかった。
「ちょっと燃えてきたな!準備して絶対倒してやる」
正直なところ、今までのボス、亀や腕長ゴリラにはドラの活躍も大きいが、拍子抜けしていた部分もある。
強敵との戦い、それに勝った時の喜びはゲームの醍醐味の1つだ。
その後も何度か挑戦したが、慎重になり過ぎ、結晶化のデバフが拡がって体が動かなくなり失敗したり、ブレスに貫かれたり、飛んでくる水晶に串刺しにされたりと失敗が続いた。
なんとかボスのHPを半分まで削るところまでいったが、そこからはランダムな間隔で俺を狙ってくる無数の水晶が常に宙に浮き、飛んできた水晶に体勢を崩されたところに尻尾でなぎ払われた。
いつの間にか外は再び日が落ちかけている。
「ダメだなぁ……やっぱ装備変えないと無理か……」
1度ホームに戻ろうとした時、老人に呼び止められ、小屋の裏にある石に触っておけと言われた。
その石は転移機能があるらしく、【始まりの街】の噴水の前、【ホーム】に転移出来るようになった。
転移を使ってホームに戻る。
レベルを上げても敵はプレイヤーと同じレベルになる仕様上、ステ差のゴリ押しは出来ない。
装備も防御力が10程度上がっても意味があるように思えず、何か解決策はないかとクラフターの書を開いた。
「あれ?……色々分かる物が増えてるな」
恐らく北区をまわった時に武器や防具を発見し、クラフターの書に反映されたのだろう。
「やっぱもっと強い武器が欲しいところだなぁ」
そう思ってページをめくるがガンズブレイドは増えていない。
そんな中、1つの防具が目に付いた。
「疾風のバンダナか……有りだな」
詳細を見ることが出来ないが、名前からして敏捷ステータスが上がるだろうと思い、素材もある為テラに作ってもらうことにした。
そして出来上がったバンダナをテラから受け取る。
「ありがと!…………あれ、予想とは違ったな」
―疾風のバンダナ―
・品質:★★
・耐久:100
・防御力:9
・特殊能力:回避性能(小)
スキルレベルの高いテラが作った為品質が向上し、防御力がやや上昇、特殊能力の【回避性能】も(微)から(小)になっている。
全武器には回避アクションが設定されている。転がったり、ステップだったり、武器により違いはあるが、その回避アクションにはほんの僅かに無敵時間が存在する。
回避性能はその無敵時間を0.〇秒伸ばしてくれるものだ。(小)なら0.3秒だ。
「あとは……窮鼠の指輪か」
これも作ってもらい装備する。
防御力などはないが、HPが2割になると攻撃が1.5倍になるアクセサリーだ。
「2割か…………HP14とかほぼ調整無理だろ……まぁだからこそ破格の性能か。よしっ!これで希望がなさそうならしばらく諦めよう」
読んで頂きありがとうございます。