21話 イベント前日・1
ログインし、速攻でイベントへの参加申請を終わらせた。俺は武器別、ジョブ別両方に参加する予定だ。
「今日の予定終了!」
日課のホーム内採取を終わらせ、この後の予定を考える。
「進化の宝玉にライドの製作、皆の服装もなんとかしてやりたいな……まずはのんびり街でも巡ってみるか」
わちゃわちゃ遊んでいる召喚者達を横目にそう考えを纏め、俺も遊びに加わる。
1時間ほど遊び、皆を連れて街に出た。
さすがにテラも肩車はやめたようで、俺の右手を取り隣を歩いている。反対の手にはドラ、腰にはレラが巻き付き、おんぶするような形で街を歩く。
「やっぱり人は少なくなってるなぁ……」
初めて街を見た時はプレイヤー数の多さに嫌になる程だったが、今はポツポツと見かけるくらいだ。
すでに新しい街が見つかっており、殆どのプレイヤーはそっちに行っている。
俺も今回のイベントが終われば新しい街に行く予定だ。
なんとなく感傷に浸り、広場の中央にある噴水の傍に腰掛ける。
空を見上げ、煌めく夜空をボーッと眺めていると、一筋の光が流れる。
「流れ星だ……」
今回のアプデで追加された要素の1つで、天気の変化が加わった。
雨や曇り、強風で木の葉や砂が舞ったりしてフィールドでの活動に、よりリアリティが加わった。流れ星もその1つだろう。
すると突然レラが服をグイグイ引っ張ってくる。
「おぉ!?どうした??」
恥ずかしがりのレラは基本的におっとりしている。その為、今回のように服をグイグイ引っ張ってきたのは初めてだ。
レラは噴水の中央、水の中を指差し、何かを訴えてくる。
「んん〜??…………何かあるな」
水に遮られよく見えないが、光っている何かがあった。
この噴水はかなり巨大で、噴出される水の量もリアルの物とは比べ物にならないくらい多い。
手を伸ばしても届かず、確かめるには噴水の中に体ごと入るしかないが、入っても罰則を受けたりしないか心配になった。
「まぁ入っても噴水が汚れることも無いし、大丈夫だろ……」
意を決し、ザブザブと水に入り膝をつく。
そして顔を水の中に突っ込んだ。
途端に視界の端には泡のマークが並んだのが分かった。
(呼吸ゲージかな?意外と長い……それより)
目を凝らしよく見ると、排水溝のような部分に光る鍵のような物が引っかかっているのが見えた。
(アレだな……)
その鍵を取り、噴水から出る。一瞬で濡れた体や服も渇く。手に入れた鍵は所々がキラキラと光り、中々に綺麗な物だ。
「レラ、これか?」
コクコク
―???の鍵―
・鍵
鑑定結果もふざけた内容だ。レラもこの鍵が欲しかった訳ではなく、手に入れたかっただけのようで、何に使うのか全く分からないが、一応インベントリにしまっておいた。
「ふぅ…………まぁ、とりあえず鍵のことは忘れてプレイヤーの店でも見に行くか!皆の服装を整えよう」
鍵を見つけた事をキッカケに行動を始め、街の北区に向かう。
北区はプレイヤー達が露店を開いたり、店を出したり出来る地区で、俺も来るのはゲームを始めた初日以来だ。
「おぉ!結構様変わりしてるな。店も出来てる」
以前見た時は、ゴザを敷いてアイテムを並べているプレイヤーが点在していたが、今は通路を確保し店も並んでいる。
木造の建物がほとんどで、屋台のような簡単な造りの物も多いが、随分見栄えは良くなっている。
せっかくなので色々と見て回る。
鉄製の装備や、回復アイテム、食材や素材を売っていたりと、巡るだけで結構楽しい。
「いかんいかん!今は服屋さんを探さないと……」
服屋さんに的を絞り、余計な物に興味を惹かれないよう気をつけながら探すと、服が描かれた看板をぶら下げる屋台を見つけた。
「見つけた!!……こんばんはぁ」
「あ、いらっしゃい。オーダーメイドもやってるから気軽に言ってね」
挨拶をすると顔を上げたのは【キャミー】というプレイヤーだ。
「うん。……ちなみになんだけど、コイツらにも服着せれるかな?」
「うん?……きゃぁ、可愛い子達!!君、召喚士?」
「うん。召喚士のゼルだ。召喚者達はずっとこのマントみたいな格好だからなんとかしてやりたくてさ」
「うんうん!!ちょっとサンプル持ってくるから待ってて」
全身が作られたマネキンと、木で出来たトルソーという胴体部分のみ作られた人形にインナーが着せてあるサンプルをキャミーはいくつも出してくる。
「こんなに種類があるんだな……」
「当然!リアルで出来ることはほとんど再現出来るからね」
さすがに普通の服のような衣装は高くて買えないが、インナーは安いらしく、そっちをメインで見てみる。
「皆はどれが良い?」
俺が決めるより召喚者達に決めてもらった方がいい。
色々あるサンプルをテラとレラは真剣に吟味し、ドラはすぐに肌着とボクサーパンツがセットになった物を指差す。
テラはへそが見える丈のキャミソールに、ドラと同じようなボクサーパンツ。
レラは胸だけを隠すチューブトップを選択した。
「この子達、中々オシャレさんだねぇ!」
「はは……あ、でもさすがに下着姿のまま出歩くのは不味いよな?装備もないし、なんとかならないかな?」
「うーん、いっぱい買ってくれるようだし、ちょっとサービスしてレインポンチョ付けてあげる!」
「助かる!ありがとう」
『『『テンキュー!!』』』
「ええっ!?…………やっっば、めっちゃ可愛いんだけど!!!!」
キャミーは喋った召喚者達にメロメロの様子で、服を仕立ててくれた。
そしてすぐに完成し、お代の3万Gを支払う。
「しばらくはこの街に居るからまた来てね!あと素材も買い取るから」
「分かった!その時はまた頼むよ」
こうしてテラ、レラはインナーの上から防御力はないが、レインポンチョを装備し、ドラはブレイカースーツを装備する。
一見、変化は分からないが、皆喜んでくれているようで一安心だ。
その後もせっかくなので街をぶらつく事にした。
ログイン初日に結構歩き回った気でいたが、中央区では知らない道や場所も発見し、ちょっとした探索になってしまった。
「あ、やべ……裏路地に来ちゃったか」
色々と歩き回っているといつの間にか人気がない裏路地に入り込んだようで、急いでマップを見て現在地と出口を探す。
キャキャキャ!!!
「ぁ!?」
変な声が聞こえたかと思うと、体にぶつかったような感覚の後、建物の屋根にいる猿のようなモンスター?が鍵を抱えて飛び跳ねているのが見えた。
「えっ!?あ、それ俺の鍵!!返せゴラァ!!!!」
急いで皆とモンスターを追いかけるが、全然追いつけない。
「クソっ……まさか盗みをしてくるやつがいるなんて……街の中だから油断してたな」
裏路地で待ち構えていたのか、俺を狙っていたのか分からないが、正当防衛なら戦闘も罪に問われない。
追い詰めて返り討ちにしてやる!
しばらく街中を走って追い回したが、モンスターは壁を登って街の外へ出ていく。
壁には小さな穴が空いており、召喚者達はそこから、俺は壁を飛び越えさらに追いかける。
「…………こんな場所あったのか」
街のすぐ側で開けた場所、マップで確認すると【始まりの街・郊外】と表示されている。
そしてひっそりと佇むように建っている小屋にモンスターは向かい、中に入っていった。
「追い詰めたぞコノヤローが……絶対に逃がさん」
すぐに裏を確認し、出口が無いことを確認すると、レラに眷族を生み出してもらい、ドラと一緒に裏側を見張ってもらう。
キャキャキャ!!
「んのクソザルが!!ブツ切りにすんぞ!!」
サルが小屋の上に立ち、手を叩きながら俺を煽ってくる。
すぐにブツ切りにしてやろうと武器を構えた瞬間____
バンッ!!!!
勢いよく小屋の扉が開き、中から人が出てきた。
「はっ!?…………NPC??」
『なんじゃ騒がしい……』
不機嫌そうな顔で老人が告げる。
「ってことはあの猿も……あの猿、じいさんのか?」
『ふむ……なるほどのぉ。あの鍵はお前さんのか』
「そうだ、返せ!」
『ふん、盗まれた小僧が偉そうに……』
「盗む方が悪いに決まってるだろ!」
『威勢は一端じゃな…………ついてこい』
そうNPCは告げると小屋の中に戻っていき、俺も皆と合流する。
NPCが絡んでいるとなると、何かのイベントのようだが、ちょっと気分は悪いな……
読んで頂きありがとうございます。