2話 チュートリアル1
キャラクタークリエイトが全て完了し決定ボタンを押した後、俺の体はふわりと宙に浮き、どんどん上昇していく。
そのまま真っ白な空間を飛び抜けると場面が一瞬で変わり、眼下には1本の大きな木が生えた草原が広がっている。
「おぉーー!!」
感動のあまり思わず声が漏れてしまった。
草原にゆっくりと降り立つと、また1人の女性NPCが立っているのが見えた。
『さぁ、こちらに……焦らず、ゆっくりといらしてください』
ここからチュートリアルが開始だ。
「マジで現実と変わらないな……」
俺が参加したβテストはかなり初期段階のもので、戦闘などが主なテストプレイ内容だった。そのため感覚の共有機能など多くのモノが制限されており、今はとても新鮮な気持ちでプレイ出来る。
軽く飛んだりして地面の感触を感じ、体の調子を確認しながら、ゆっくりと歩いて女性のもとに進む。
女性NPCのそばにつくと、ニッコリと微笑み、色々と説明が始まった。
要点を纏めると___
・プレイヤーは異界の冒険者という設定である。
・街や村には高性能AIを搭載したNPCも生活している。
・プレイヤーは冒険者ギルドと選択したジョブギルドに登録されている。
・PKが推奨はしないが許可されている。
・戦闘中死んだ場合、デスペナルティーが存在する。
・現在いる場所はホームと呼ばれるプレイヤーの拠点。
上3つはそのままだが、下3つはかなり重要な情報だ。
まずPKに関連して。
プレイヤーは街などでアイテムを盗んだり、PKが可能だ。
これは悪の道に魅力を感じた者達に対応した仕様であるのだが、相応のデメリットも存在する。
窃盗などはプレイヤー、NPCなどに見つかるとゲーム内通貨の罰金、またゲーム内牢獄での監禁、何度も繰り返せば賞金首として登録される。PKは一発で賞金首登録だ。
賞金首登録されてしまうと、プレイヤーネームが敵と同じ赤色の表示に変更され、街や村の一般的なNPCの店などを利用出来ず、敵としてNPCやプレイヤーからも狙われるようになってしまう。
運営セキュリティからも保護対象が外され、今後開催されるイベントにも参加が不可となる。
さらに特大のデメリットとして、キャラが死んでしまうとキャラデータが消去されてしまうのだ。
凄まじいデメリットだがメリットもあり、賞金首になることでしか利用出来ない特別な店や武器、ジョブなども存在し、プレイヤーを倒す事で凄まじい程の経験値が手に入る。
悪の道に進み、自分がラスボスに成り代わる!なんていう設定でプレイヤーに戦いを挑めたりするようだ。
「これは流石にない。PKなんぞ絶対やらん」
次にデスペナルティーについて。
イベントや特別な場所を除き、プレイヤーは死ぬと【脆弱】と呼ばれるデバフが10分間付与された状態となり、死んだその場で復活する。
脆弱は、敏捷ステータス以外のステータスが3分の1となり、装備しているアイテムの耐久値が一時的に半分、さらに耐久消耗速度が2倍となる。
脆弱が解除されるとアイテムの耐久値は元に戻るが、脆弱状態で減った耐久値は減った数値の割合に応じて反映される。
さらに脆弱が付与されている状態で再び死んでしまうと、インベントリ内のアイテムとお金が全て消滅し、ホームに強制送還されてしまう。
これはゾンビアタックと呼ばれる、死ぬことを前提に敵を倒す戦法の対策となっているようだ。
そしてデスペナルティーが存在するためか、AnotherWorldでは一撃死は存在しない。どれだけ耐久のステータスが低い状態で強力な一撃を受けたとしても、必ずHPが1残る仕様となっている。
「まぁ1度死んだら10分間大人しくするか、逃げ回れってことだな」
最後にホームについて。
今いる場所がホームなのだが、ここではハウジング要素が楽しめる。
素材から建材を作り出し、それらを使い自由に家などを建てる事が出来るようだが、25メートルプール2つ分程の広さしかない。
建物を建て、拠点としてだけ利用するなら十分すぎる広さではあるが、ハウジング要素を目一杯楽しむには少々心許ない広さだ。
『ホームで出来る事と併せ、ご説明いたしますね』
NPCはそう言い歩き出し、俺も後に続く。
木を中心とし西へと向かい歩いていくと、再び木が見えてくる。
「さっきの木だよな……」
『はい、ご覧頂いたように、このホームは小さな世界、箱庭のような造りとなっています』
「ほうほう、それで?」
『今回はご紹介の為、特別に再現いたしますね』
そう言ってパンパンとNPCが手を叩くと、さっきまで何も無かった木の西側に風景が創り出される。
そこには草原よりさらに大きな面積の森が広がっていた。
「はあー、なるほど!箱庭の世界を増やして、ホームを拡張出来るわけか」
『はい。この箱庭のような小さな世界をアルカナと呼びます。色々な方法で手に入れる事ができ、広さ、特徴も様々です。ぜひ手に入れて楽しんでくださいね』
そのあと森は消されたが、なるほど……色んな景色の中に建物を好きなように建築する事が出来る。これは楽しいかもしれない。
再び木の下に戻ってくる。
『こちらをお受け取り下さい』
ぼんやりと光る手のひら大の光の球を受け取り、それと同時にプレイヤーに最初から備わっている特殊能力、鑑定についても教えてもらう。
鑑定は道具の名称や効果、モンスターの名称やレベルなどを表示してくれる機能だが、プレイヤー間では相互許可が必要となる。
早速渡されたアイテムを鑑定する。
―初級万能採取道具―
品質・―
耐久・―
効果・基本となる採取道具。簡単な素材をこれ一つで採取が出来る
『そちらを使用し、この木から木材を採取してみてください』
視線を木に向けると、木から半透明の薄い光が出ている。その光に意識を向けると、手に持っていた光の球である初級万能採取道具が斧の形に自動で変わった。
「すげっ!……よいしょ〜!!」
2回ほど斧を打ち付けると薄い光が消える。これ以上は採取出来ないようだ。
「なるほど。こうやって採取するのか」
『はい。ホームではフィールドに比べ採取出来る数は極わずかとなりますが、1日1回の採取が可能となります』
さらに採取道具やスキルで採取量が変わり、アルカナによって種類も変わってくるそうだ。いいね!
その後、生えていた薬草を3個採取し、次のステップに進む。
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