11話 心機一転
今日は心機一転、本格的にメダルを集める予定だ。
レベル上げだったり、家を建てたり、炎上させられたりで、メダルを集める予定が大幅に狂ってしまっていた。
レベル上げの合間に出来ただろ!と思うかもしれないが、俺はまだモンスターをメダルに変えるアーツ、封印を使ったことが無い。
というのも、封印はアーツであるため、現状1と少ないがMPを使用する。
レベルが低いとMPの最大値も上がらず、戦闘用のアーツを使えなくなってしまう。MP回復アイテムがない現状、加えてテラがいるため、後先考えずアーツを連発するとMPを回復する為に待機したり、街に帰らないといけなくなる。
それはレベル上げの効率が非常に悪い。
だからこそアーツも初見の敵には使っているが、レベル上げの際には万が一に備え、MPを温存するようにしていた。
だが、以前森に入った際採取した【魔力草】と【薬草】を素材に、テラが【魔薬草】というMPを回復するアイテムを作ってくれたおかげで、本格的にメダル集めに乗り出すことが出来るようになったのだ。
まだ午前0時で夜だが、平原なら夜でもガイコツ以外は問題ないため、平原へと向かう。
「お?ラットLv4か。丁度良いな」
手持ちの魔薬草は12個。1個でMPが20回復し、今俺の最大MPは25だ。
「試しに使ってみようか…………封印!」
アーツ名を口にすると、俺の体から光の球が生まれ、ラットにヒューっと飛んでいく。
光の球は薄緑色で、球を軸にリングが縦と横で十字に重なっている。中々豪華なエフェクトだ。
「あっ……避けられた」
このゲームにおいて、攻撃魔法なども同じだが、遠距離アーツは必中ではない。
対象に向かう速度はアーツによって異なり、発動した角度で、そのまま直進する。
フレンドリーファイアはないが、アーツフルぶっぱで勝てる仕様ではないのだ。
その為、封印を当てるのにもコツがいる。
すぐに反撃の投石が飛んでくるが、それを避けて今度は接近して避けられないタイミングで封印を放つ。
当たりはしたが、光の球が弾け飛ぶ。
「確率か……それともHP減らさないとダメなのか……」
ラットのHPを8割ほど削り、再度封印を使ったが弾かれる。
諦めきれずもう一度使うと、今度は封印の光がラット全体を包み込み、その後テラが生まれた時の様な結晶になった後、結晶が圧縮するように小さくなってメダルに変わっていく。
「ふぅ……先にLv上げといて良かった」
結構苦戦したが、【★1投石】のメダルを獲得できた。
流石に1回ではメダル化の条件の仮説もたてられないので、色々と試してみる。
―メダル関係大体分かったこと―
・封印アーツに確率が存在する。
・敵のHPの残量で確率が変動。HPが減れば封印の確率が上がる。
・モンスター1種から3つのメダルを獲得できる。(封印1回につきメダルは1個)
・メダルにすると経験値や素材は手に入らない。
―メダル関係不明点―
・レベル差がある場合、封印出来るのか。
・Lvが高いモンスターを封印すると、種族や効果の★が上昇するのか。
例:ラットLv50を封印した場合など種族★1なのか、それ以外なのか、またはそれもランダムなのか。
「中々厳しいな……」
メインメニューを開き、分かったことをメモ機能に書き込みながら、独り言を呟いてしまう。
全てを検証する気はないし、出来るとも思えないがまだまだ不明な点は出てくるはず。しかし、それを今考えてもどうしようもないため、平原のモンスターを片っ端からメダルに変えていく。
そして昼頃には8種のメダルが集まった。
グレーラットからは【獣】【気配察知】【投石】
グレードッグからは【獣】【逃走】【原始】
グレーアントからは【虫】【硬質化】【回転】
全て★1だ。
大体モンスターの特徴がそのままメダルに反映されている。
その中で【原始】が強そうだと思い鑑定してみると、原始的な。とかそんな感じの意味合いだった。道具を使わず、素手で殴ったり、噛み付いたりするアーツを覚えるスキルのようだ。
1度街に戻り、テラとご飯を食べながらあれこれ考える。
「種族は別として、効果メダルはどれも微妙だな……」
召喚に関してはメダル化以上に分からないことがある。
例えば獣、気配察知、投石を使って召喚した場合、ラットが生まれるのかどうか、などだ。
色々と調べてみたいが、愛情を注げないやつを無駄に生み出したくはないし、経験値減少があるため闇雲に召喚はしたくない。
メダル集めも結構大変だし、召喚は慎重にやっていきたい。
「現状の効果メダルだと戦力になりそうに無いしなぁ……硬質化がせめて硬質ならまだ可能性はあったけど……」
とにかく今俺に必要なのはレベル上げだ。
メダルの種類を増やす為にも色んな場所に行って、色んなモンスターと戦わないといけない。
格上モンスター相手にPSで勝てたとしても、メダル化となるとかなり厳しい。
「森でレベル上げするか」
こうしてまずは冒険者ギルドに立ち寄り、クエストの報告や新しいクエストを受けて、再び森でレベル上げをすることになった。
森もかなり広く、探索がてら結構奥まで来た時のことだ。
「どわぉっ!!びっくりした……」
少し開けた場所に出た瞬間、すぐ近くにモンスターがいたのだ。
AnotherWorldではマップ上にモンスターの位置などは表示されない。
代わりに第六感とでもいうべき機能が備わっており、モンスターが近くにいると、ハッキリした位置などは分からなくても、モンスターが近くにいるな。くらいの事が感覚で分かる。
だが目の前にいるモンスターは、そんな感覚が一切なく、最初はプレイヤーかと思ったくらいだ。
―ズンドコ―
Lv????
このズンドコというモンスターは、以前海に入った時に見たモンスターとは違い、名前は分かるがLvが分からない状態だ。
見た目も、体格は人間と同じくらいで、額に2本の角が生えていることくらいしか違いが分からない。
表情も顔を伏せているためハッキリと分からないが、かなりの筋肉質であり、両手に武器である棒を持っている。
「テラ、動くなよ……」
コクコク
モンスターなのは間違いないが、このズンドコというモンスターは一向に動く気配がない。少し様子見をすることにした。テラは俺の足にしがみついている。
何も起きないまま、少し経つとズンドコが顔を上げ俺の方を見る。
直後、俺の視界が真っ暗になった。
「ちょっ…………マジかよ」
テラは俺の足にしがみついたままで、何故かテラだけは見えているが、周囲の様子は何も見えない。
戸惑っていると、突然スポットライトのような光が差し込んでくる。
その光でズンドコだけが見えているのだが、何かに座っているのか、さっきより視線が低い。そして……
ドコドン……ジャーーーン!!!!
「うぇえ!?なんだぁ!?」
謎の音と共に真っ暗だった周囲が少しづつ明るくなっていく。
「ドラムっ!?」
ズンドコの前には楽器のドラムが出現しており、やや暗い周囲の様子から、まるでライブ会場に来ているかのような感じだ。
そしてダダダダダとズンドコのドラムパフォーマンスが始まり、それが終わると再びスポットライトが照らされる。
「増えた!!!」
キュィーン、ジャジャーン
ベン、ベベン、ボーン
そんな音と共に今度はズンドコに良く似たモンスターが2体現れる。
ギターを持っているのがジャーン、ベースを持っているのがベンという名前だ。
そして静かになった後、チャンチャンチャンとバチ同士を打ち付ける音の後、ズンドコ達によるバンド演奏が始まった。
3人で奏でているとは思えない重厚な音、ハードロックな音楽が流れ、俺とテラもベドバンしながら盛り上がってしまった。
そして演奏が終わる。
「YEAHーーーーーー!!!!」
ついつい叫んでしまった。
するとズンドコは俺とテラに歩み寄ってきて、チケットのようなアイテムを手渡し、消えていった。
【実績:ユニークな遭遇を達成しました】
獲得・10000G
「はぁ…………最高だった。な、テラ!」
ブンブンブンブン
「はは、あんま頭振ってると首痛めるぞ……さて貰ったアイテムは……ライブチケットの半券!?拘ってるなぁ」
こうして俺はユニークモンスターという、一風変わったモンスターと初めて出会った。
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