1話 もう1つの世界へ
文明が発達した世界。
人々の生活は時間に追われるように過ぎていく。
朝起きて、仕事に向かい、帰宅後も家事などで時間が過ぎていく。嫌なことを忘れる為、趣味の為、娯楽に興じるも次の日のことを考えると思うように楽しめない。
睡眠時間を削ると翌日は思うように成果を出せず、嫌味や注意をされ、さらにストレスが溜まっていく。
そんな状況を打破する為、以前から発達していたVR技術がより注目を集めた。
この技術を進歩させるべく全世界が協力することにより、進化した仮想空間ではフルダイブが可能となった。最初は漫画やアニメ、動画を睡眠時間中に視聴出来る程度だったが、そこからさらに進化した現在では、現実と遜色ない活動が出来るようになり、睡眠時間中に娯楽を目一杯楽しめるようになっていった。
こうして人々の生活はキッチリとした睡眠時間を確保しつつ娯楽を楽しめ、ストレスフリーとなったことでさらなる発展を遂げていく。
そしてそんな中、1つのゲームが発表された。
AnotherWorld。
もう1つの世界と名付けられたこのタイトルは、VR空間に創り出された広大な世界にフルダイブし、もう1人の自分として、思うがままに楽しめるMMORPGとなっている。
MMORPGが主体となってはいるが、VR技術の発展には全世界が携わり、色んな企業が共産している。その為、AnotherWorldはありとあらゆるゲームジャンルが盛り込まれ、万人が楽しめる全部盛り仕様となっている。
アクション、ロールプレイング、シューティング、シュミレーション、パズル、音楽、トレーディングカード、スポーツ、ハウジング、ボード、ホラー、などなど。これらがAnotherWorld1つで遊べるのだ。
そしてAnotherWorld運営は数年の制作期間と度重なるテストを実施し、バグ、チートの徹底排除を明言している。
さらにシステムにおいても従来のゲーム知識を覆すシステムが導入されている。最も分かりやすいのは武器についてだ。
ジョブによる武器制限などもなく、本来両手で持つような巨大な武器もそれぞれ両手に持ち、所謂二刀流が可能であり、さらに豊富な武器種を好きなように左右で組み合わせる事も可能である。
ジョブに関しては指針となる基本的なものは存在するが、そこからプレイヤーのプレイスタイルをAIが読み取ってサポートし、独自の進化を遂げていく。
大剣と杖を装備した重装備の魔法使い、なんていうものも可能で、それに合わせアーツと呼ばれる技や、ジョブも変化していく。まさに理想を思い描いたもう1人の自分を作り出せるのだ。
「遂にサービス開始……楽しみだ!!!」
俺の名前は桜木輝。数年前にβテスターとしてAnotherWorldをプレイし、どハマりした普通の会社員だ。
正式サービス開始まで情報を集めたり、1年前にリリースされた体験版をひたすらやり込み、5月1日の0時を待ち望んだ。
体験版では武器の組み合わせなどを確かめることができる。色んな組み合わせがある中、当然使えない……弱いと言われる組み合わせも存在するが、それはプレイヤースキルで補う事が出来る。
体験版ソフトは無料だが、AnotherWorld専用のゲームハード、クロスポイントは先行販売で今より3倍の値段で7桁の金を使って購入し、1年間ひたすらプレイヤースキルを磨いてきた。
発達したVR空間は時間の流れが異なり、現実時間、その中の睡眠時間である7時間で、ゲーム内では24時間が経過する。
5月1日am0時にログインした場合、ゲーム内では同日23時59分まで最大で遊べ、その状態でログアウトすると現実世界では7時が経過、起床するam7時になっているというわけだ。この現実との時間差も、あらゆる面で問題は解決されている。
つまり俺は365日丸々使ってプレイヤースキルを磨いた事になる。その甲斐あって、ネタを通り越し、特大地雷と言われた「とある武器」の組み合わせも、かなり上手く扱えるようになった。
そんなこんながありつつ、製品版をβテスター特権である優先購入権を使い手に入れた。
ソフトの初回出荷本数は10万本。リリース開始から100万も200万も同時ログインすると、さすがに問題が起きた時の対処が難しいようであり、様子見を兼ねて過去のβテスター達が優先して入るようだ。
問題が無ければ長くても2ヶ月以内には全世界リリースされるはずだ。
「早速ログインだ!……おやすみなさい」
現実とVR空間を繋ぐという意味のクロスポイントをソフトと共に起動し、目を閉じるとすぐに眠りに落ちる。
そして意識の覚醒と共に、オープニングである広大な世界の大空を飛行体験したあと、場面が真っ白な空間に切り替わる。
『ようこそ、もう1つの世界へ』
真っ白な空間に1人の女性NPCが立ち、俺に話しかけてくる。
「きたきたー!!おっしゃー!やるぞー!!!」
『体験版のデータが存在しています。キャラクターデータを引き継ぎますか?』
「んー、いや。新しく作るよ」
『かしこまりました』
体験版のキャラはテキトーに作ったやつだ。製品版ではキャラクタークリエイトでも色々追加要素があるようで、新しく作り直すことにした。
『現実の貴方を参考にアバターを作成する機能、美形アバター機能を使用しますか?』
早速新機能だ。せっかくだし使ってみることにする。
「うん。頼む!」
現実の俺は顔はともかく、体型など身だしなみには気をつけている。まぁ寝るまでの空いた時間を使って運動不足にならない程度に動かしているだけだが……
種族は人間の他にもドワーフやエルフ、小人や魔族、色々あるが俺は人間を選択した。その後は一瞬でアバターが作成されるが、美形アバター機能とやらのおかげか、かなりのイケメンキャラが出来上がっている。
「おぉーー!!……でも、イケメン過ぎるな……ちょっと弄ろうか」
ブサイクになるようにキャラをイジるのも変な気分だが、それぐらいイジる部分が無い。俺を究極にカッコよくするとこんな感じになるのか……
結局、眉の形を分からないぐらい微妙に変え、髪型を黒髪ショートから、ライトブラウンのミディアムの長さ、ソフトスパイラルパーマのものに変更した。
アバターは完成し、最後に初期ジョブとプレイヤーネームを設定するとキャラクタークリエイトが完了になるのだが、さてどうしたものか……
いくらジョブや武器の組み合わせが自由とはいえ、初期ジョブでは指針が決定される。俺が使う予定の武器は変わった特徴のある剣の為、戦士にしようと最初は思っていたが、特大地雷などと呼ばれる評価を受けている。
そのためパーティを組み辛いと予想でき、常時パーティを組んでくれる知人もいない。それを考慮してジョブを選ぶ必要が出てきたのだ。
・戦士……近接武器を使用することに適したジョブ。
・狩人……物理遠距離武器を使用することに適したジョブ。
・魔法使い……魔法を使用することに適したジョブ。
・僧侶……回復を使用することに適したジョブ。
・テイマー……NPCを使役するジョブ。
・召喚士……NPCを召喚するジョブ。
生産職と呼ばれるジョブもあるが選ぶつもりはないので今回はスルー。戦士、狩人、魔法使い、僧侶に関しては見たままなのだが、テイマー、召喚士は互いに違った特徴がある。
テイマー
・テイムアーツでモンスターを【従魔】として仲間に出来る。
・テイムしたモンスターが戦力に直結する。
・テイムするまで能力やステータスがやや不明。
召喚士
・封印アーツでモンスターをメダルに変え、メダルの組み合わせによって【召喚者】を生み出し仲間にする事が出来る。
・メダルの組み合わせ次第では死にスキルが発生するが欲しい能力をプレイヤーがある程度絞り込める。
・生み出した者の容姿などが分からず、レベル1から。
βテストが開始されるまではテイマー、召喚士共に人気のジョブだったのだが、蓋を開けてみるとかなり不遇ジョブである事が判明している。
召喚士はプレイヤーが思うように戦力を生み出せる反面、育成コストがとてつもなく高くなっているのだ。
召喚者がパーティに2体いると取得経験値が20パーセント減少、3体で30、4体で40、最大の5体で50パーセント減少となる。プレイヤー、召喚者5体のフルパーティの場合、本来なら1000貰える経験値も半分になり、そこから6等分になってしまう。
テイマーには召喚士のような経験値減少はなく、テイムしたモンスターのレベルがそのまま反映され、テイム時にモンスターの容姿がデフォルメされるようだが、戦闘中に入れ替えが出来るトリッキーな戦闘スタイルがコンセプトの為、数の確保が大事になってくる。さらにモンスターの最終的なステータスはやや控えめになっているようだ。
「うーん、テイマーは能力を優先すると見た目がキモイやつでも使わないといけない。召喚士はレベル上げ地獄……」
このゲームはかなりバランスが重視されているため、プレイヤースキルの差はあれど、特定の武器種やジョブが極端に強いことは有り得ない。
テイマーはモンスターをテイムさえすれば、あまりプレイヤースキルが関係ない。
召喚士のように組み合わせに悩まず済むのがメリットになり、バランスをとっているのだろうか……
「まぁプレイヤー全員がアクション得意とは限らないもんなぁ」
既に不遇武器を使うのでゲーム内でもボッチは確定。そのためテイマーか、召喚士を選ぶことは決めているが……
「召喚士だな!レベル上げくらいやってやんよ!!!」
キャラクターネームは本名のテルを少し変え、ゼルにした。ゲームのキャラは毎回この名前だ。
いよいよゲームスタートだ!
11/2追記 『VR技術の発展には全世界が携わり、色んな企業が共産している』
「共産」は誤字として報告して頂きましたが、協力する協賛ではなく、財産を分け合う共産で合っていると思うので、反映はしていません。
ですが、誤字報告を頂き感謝です。読んで頂きありがとうございます。