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6 初夜2

 誰よ! アーサーが無表情に淡々と事に及ぶと思っていた馬鹿は!? 私だよ!


 翌日、目覚めてすぐの脳内ツッコミだ。


 意識して声に出さなかったのではない。……昨夜叫びすぎて声が出ないのだ。


 ついでに言うと体中の節々が痛くて怠い。


 ……うん、確かにこれなら妾妃やアーサーの言う通り、二年前彼が本当に私を抱いていたら、とても宰相府まで抗議にいける体力など残っていなかっただろう。


 寝室の明るさからして、もう朝ではなく昼に近いのが分かる。


 ……一応初夜なので侍女達も気を利かせて起こしに来なかったのだろう。


 ……すごかった。


「普段の冷静沈着さはどこいった!?」と詰め寄りたくなるほど()()()()()()()は、とにかくすごかった。


 何度か失神しかけたが彼が満足するまで散々いいようにされたのだ。


 寝台には私しかいない。


 事が済んだから、もう(わたし)と添い寝までする必要はないと思ったのだろう。


 一応初夜なんだから(わたし)の傍にいてほしいと思わないでもないが、彼にそれは期待できないし、すべきではないだろう。


「弟を死なせないために、この国の慣習を変えるために、力を貸してほしい」と願った。


 その代わり「愛を求めたりはしない」と約束したのだ。


 ……愛人も許容すると。


 そこまで考えて胸が痛くなった。


 ……アーサーが私以外の女に昨夜の私にしたのと同じ事をする?


 想像だけで不快感が半端なかった。


 絶対に嫌だと思った。


 けれど、私は女王になりたくないという身勝手な理由で「恋人」を作った。


 実際には何もなかったけれど婚約者だったアーサーを裏切っていた事実に変わりはない。


 彼に愛人を作るなとは言えない。


(……子供が生まれれば、きっと耐えられるわ)


 愛する夫との子供を産んで、その子を愛し愛されれば、きっと耐えられる。


 そこまで思った時、聞き慣れた低音の美声が聞こえた。


「リズ、起きたのですね」


 またノックが聞こえなかったのか、今度はノックをしなかったのか、扉を背にしたアーサーが水差しとコップをのせたトレーを手に立っていた。


「……何の用?」


 自分が思っていた以上に声がかすれていた。


 私は全裸だがアーサーはもうしっかり服を着こんでいる。


 ……私は疲労困憊でぼろぼろだのに、彼はいつも通りだ。冷静沈着、完璧な外見とそれに相応しい人を畏怖させるカリスマ性を持つ私の夫。……昨夜の壮絶な色気や激しさが嘘のようだ。


 昨夜全てを見られた夫とはいえ堂々と裸で対峙できる度胸などない。上掛けを体に巻き付けると上半身を起こした。


 アーサーはサイドテーブルに水差しとコップをのせたトレーを置いた。


「用がなければ来てはいけませんか? ここは私の寝室でもあるのですが」


 ここは王太女夫妻の寝室、アーサーの言う通り彼の寝室でもある。


「……それはそうだけど……もう戻ってこないと思っていたわ」


「媚薬を妾妃に返すよう命じたのと水差しとコップを取りに行っていただけですよ。貴女が目覚める前に用事を終わらせるつもりだったのですが」


 アーサーが()()媚薬を妾妃に返すように命じたのかは見当がつく。妾妃の命令で私の侍女となったグレンダだろう。


 ……日常私の傍にいなくてもアーサーは私の全てを把握しているのだ。おそらく国王も。


 今更それに恐怖や憤りを感じたりなどしない。王女として生まれ王太女となった私の宿命だと受け入れるしかない。


 アーサーは水差しを傾けコップに水を注いだ。


「水をどうぞ。昨夜散々啼かせたので喉が痛いでしょう?」


 アーサーはさらっと言ってくれたが……私は昨夜のあれこれを思い出して顔が熱くなった。反射的にアーサーを睨みつける。


「……そんな顔されると我慢できなくなりますね」


 アーサーは珍しく困った顔になった。


「昨夜無理させたから()()()自重しようと思ったのに。……貴女が悪い」


 アーサーは手に持っていたコップに口をつけた。


「私にくれるんじゃないの?」と言おうとした私を寝台に押し倒すとアーサーは口づけた。


 口移しで何度も水を飲まされ本格的なキスに移行しだしたので私は慌ててアーサーの胸を全力で押した。


 仕方なさそうに顔を離したアーサーの至近にある黒い瞳を見て私はぞくっとした。獲物を前に舌なめずりする肉食獣だ。


 昨夜と同じ――。


「む、無理! 今日は絶対無理!」


「貴女が煽ったんだ。責任とってください」


 涙目で叫ぶ私に、アーサーはいつもの彼らしく冷静に切り返した。


「煽ってない!」


 とんだ言いがかりに私は思わずアーサーを睨みつけた。


「……この場合、その顔は逆効果ですよ。リズ」


 アーサーは再び口づけてきた。


 このままでは、なし崩しで昨夜の二の舞! それは嫌だ!


「……っ!?」


 アーサーは小さく呻くと顔を離した。彼の美しい唇の端から血が一筋流れた。私が彼の舌に噛みついたのだ。


「……やってくれますね」


 アーサーは舌で流れる血を舐めとった。


 赤い舌が鮮血を舐めとる様が妙に妖艶で思わず魅入ってしまったが、目が合った瞬間、私は戦慄した。


 魂さえ凍りつくようなその眼差し。


 本当に「凍りつき」そうになったが、そうなったら確実に昨日の二の舞、「それは嫌だ!」という思いだけで自分を奮い立たせてアーサーを睨みつけた。


「……謝らないわよ。私は嫌だと言ったんだから」


 正確には「無理!」だけど、まあ似たようなものだ。


「昨日散々したんだから今日はもういいでしょう?」


 本当に今日は勘弁してほしい。……冗談でなく本当に死ぬ気がするのだ。


「ええ。でも、全然足りない」


 アーサーの言葉に私は絶句した。


「……肉欲に溺れるなど愚かとしか思わなかったのですが……確かに、理性や自制心など何の役にも立たない。へたな麻薬よりも厄介ですね」


 アーサーは目だけ笑っていない美しい微笑を浮かべた。……睨まれるより怖かった。


「私に噛みついたのだから、それ相応の覚悟はできてますよね?」


「あ、あれは、あなたが悪い!」


 私は思わずアーサーと同じ科白を叫んでいた。


 結局、どれだけ言葉や体で抵抗しても全ていなされ、昨夜と同じくアーサーに散々いいようにされたのだった。













































 







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