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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

巣くうなら貴方の胸に

作者: 紙一重

グロくはないですが、虫を食べる表記があります。

虫マジ無理、マジ無理だから、マジで。って人は、さようなら。

気持ち悪くても、お互い幸せなら、問題ないって思う方に贈るポエム的小説。

ずっと恋をしていたわ。

痛みをくれたあなたを愛していたの。

出逢えなければ、きっと私は何にもなれなかった。

すべてを超えて、あなたにもう一度出逢いたい。

すべてが変わってしまっていてもいい。

私があなたに出逢えれば、それでいい。



愛海まなみはさ、なんでアイツと付き合ってんの?」

アンが不愉快極まりないという顔で、私に尋ねてくる。

この問いは私と彼が付き合い初めてから何度となく繰り返されており、私にとっても、もう十何度目かになるものだった。

私は飽きもせず、同じ答えを繰り返す。

「大好きですの。好きでたまらないのですわ」

杏は深いため息をつく。

豊かなブロンドが顔の3分の1を隠していても、杏のその美貌には、誰もが見とれ賞賛の言葉を漏らす。

長いまつげが影を作り、バラ色の唇は艶やかで瑞々しい。そばかす一つない肌は透き通って光るようだ。

だが、杏の唇からは、変わらずに辛辣な言葉が続く。

「それは分かってんの。でもなんで好きなの。あんな頼りないやつ。悪い奴じゃないんだろうけど、愛海の彼氏なら、もっと堂々としてほしい」

お節介で愛情深い彼女は、相も変わらず、私と彼の行く末を案じているらしい。

彼が、私の家の会社を継ぐときの事まで考えているようだ。

「ふふ、杏に言われたくありませんわ。愛する人のため、ずっとずっと、背伸びして頑張ってる杏の方が、心配ですわ。本当は愛する人だけを見ていたいでしょうに、あなたの方が大変そう」

杏のまんまるの瞳、くるんとカールした睫毛、ふっくらした唇、肉感的な柔らかい体つき、杏は『愛らしい』のすべてを持っている。

でも、彼女はそれでは嫌なのだ。愛する彼にふさわしい自分でいるために『愛らしさ』を犠牲にして、顔も髪型もシャープな美しさで塗り固めている。結果、愛らしさと美しさが同居した、危うい色気を放っており、むしろ老若男女が放ってはおかない悪循環へとはまっている。

本当は私を心配するより、自分の身を案じたほうがいいのだ、彼女は。

だが彼女は真剣に言葉を返してくる。

「私はいいの。背伸びでも、幸せなの。でも愛海は違うでしょう。こんなに愛してんのに、なんで報われないの」

彼女はやっぱり愛情深い。深すぎるくらいだ。

そんな彼女に、孤高の存在である彼が、溺れてしまうのも無理はない。

互いに背伸びをしあって、二人はまるで、相思相愛の子どもが背伸びしあっているみたいだ。

私の彼は、絶対にそんなことはしないから、うらやましいところもある。


でも仕方がないのだ。私の彼は私よりも大きくて、優しくて、不憫で、かわいそうなのだ。


「納得いかないわ」

杏はいう。


でも、私は構わないのだ。

何年も何千年も昔のこと。

もう誰もが忘れてしまっていること。

遠い昔のお願い。それを叶えてもらっているのだから。





「やぁ、綺麗だね、君」

整った顔、燃えるような赤い髪。冴えた灰色の瞳。

そんな素敵な顔立ちを台無しにする自信の無さそうな表情。

人差し指にとまった私を見下ろして、笑いかけてくれた。


疲れた私に、気まぐれに声をかけただけの貴方。

でも私には違ったの。


まさか、想像もしなかったでしょう。

小さな小さな私のお願いを、神様が叶えるなんて。



かみさま

かみさま

かわいらしいひとにあったんです

ひとめで恋におちたわ

きれいだっていってくれたの

何年かかってもいい

何回うまれかわってもいい

いつか、あのひとと恋がしたい



かみさま

おねがい







「おかえり、愛海」

一見冷たくも見える、釣り目がちの貴方は、帰ってきた私におずおずと微笑んで、そっと手を握ってくれた。

「氷みたいだ。冷たい」

ついさきほど杏と別れるまで、雪の中歩いていた。

手袋をしていなかった私の指は、真っ赤になっている。

「杏と、お茶を飲んできたのですわ」

杏が、彼を批判していたことは絶対に言わない。

彼は傷つきやすいのだ。

「そう。よかったね、今日は雪が降ったけど、あまりひどくならなかった。いいクリスマスだ」

「ええ、本当に良かったですわ。貴方も今日はお休みがとれたのでしょう?」

「うん、久しぶりのお休みだったよ。明日も休めたから、一緒にいられるね」


体中がプルプルと震える。

「愛海、寒いの?」

「あら。いやですわ、私ったら、癖ですの」

(蝶だったころからの)


何回生まれ変わっても、蝶であっても、それ以外の虫であっても、鹿になっても、猫になっても。

言葉通り、歓喜に震えてしまう。


「あなたと出逢ったときも、体中が震えましたの」

ふふ、と思い出して笑う。

「うれしかったわ」


にこにこと笑う私を見て、貴方は照れ臭そうに笑った。

うだつのあがらない、ぱっとしない、やさしいだけ。

そんな美しくない言葉が、貴方を勝手に評価していく。

みんな知らないのね。

小さな小さな命にさえ、優しくて。

かける声色はまるで蜂蜜のように甘い。

見下ろす瞳は、普段吊り上がった目じりが優しく垂れさがって愛しい。

誰も知らなくていいわ。


「愛海は、時々びっくりするくらい熱い言葉をくれるね。家を捨てるって言った時も、びっくりした」


「家なんて、継ぐ人さえいればいいのですもの。雨風をしのげれば、あとは花さえあれば」


「はな?」


「ふふ、ご飯ですわ。貴方とかね」


「何?どういうこと?なんだか怖いなぁ。花を食べるって、蜂や蝶みたいだ」


「あら、蜂や蝶が怖いんですの?貴方」


「うーん。蜂も蝶も怖くないけど、君なら怖いかなぁ。美人で綺麗だから、なおさら迫力もあるし」


「私が怖い?心外ですわ。こんなに愛しているのに」


「それだよそれ」


「それ?」


「うん」





「君に食べられちゃったら、幸せすぎて、何回生まれ変わっても、また一緒になりたくなっちゃうよ」




愛しそうに見下ろす、あの時の表情のまま、貴方が私を見つめるから、私はまた全身をプルプルと震わせた。鱗粉が舞うような心地だ。



「ふふ、それこそ心外。だって・・・・」






小さな小さなわたくしを、大きな手で捕まえて


熱い唇で優しく食んで


硬い歯でかみ砕いて


舌で愛撫した挙句


飲み干してしまったのは


貴方なのに






暗い瞳と、陰った表情、偏った性癖と執着におぼれた貴方が、

美しい綺麗だと言いながら

私を食べてしまったから

私は嬉しくて嬉しくて嬉しくて

貴方以外とは番いたくないと

神様に祈ったの


何回も何回も生まれ変わっても

何回も何回も想い続けた


杏、私、幸せなの。

人間の幸せじゃないかもしれないけど

私、この人と一緒がいいの

ずっとずっと昔のことよ

片羽しかないわたくしを『きれい』と言って

その唇で優しく食んでくれたから

わたし、かみさまにお願いしたの

いつかこの人と恋がしたい




恋がしたかったの

書き始めたら、想定から外れてどんどん偏愛に寄ってしまったので、いっそ振り切ってみました。

解説でこれを説明って実力不足極まりないですが、一応補足しておくと、杏の『報われない』ってのは、主人公の彼が一番に愛してるのは『虫』だと知っているからです。愛海の彼にとって、愛海を超える『虫』はいないんですが、そのことは杏は知らないので。愛海の彼は、なぜ虫でもない人間をこんなに愛せるか不思議に思いながらも、唯一の人として愛海を愛しています。

幸せならいいんです。

相思相愛、言葉だけならラブラブなんですけどね。

おいしく食べてね。

その代わり、何度生まれ変わっても愛すからな、忘れねぇからな、お前も愛せよっていうヤンデレ。

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