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旅と影

 旅をしているんだ、とその影は言った。あなたは誰のものなのですか、と問うと影は、持ち主は一足先に旅立ったよと答えた。


「長い間、病に苦しんでいてね。不可能を可能にすると評判の魔術師であっても病魔には勝てなかったというわけさ。そんな彼は最期の力を振り絞り自らの影――僕に魔法を掛けて分断し、世界を見て回らせることにした。可愛い子にはってね。きみは影が好きかい?」


 自らの足元を見下ろす。特にこれといった感想はない。


「はは、そりゃあそんな反応にもなるよな。仕方のないことだ。僕がきみでも、多分そう思うに違いない」


 影なんてその程度のものさ、と彼――おそらく元々の宿主が男性だったのだろう、疲れ切った声色で、男の影……いや、すでに自立している彼は影の男と呼ぶべきか。影の男はどこか寂しそうにぼやいた。


「ま、きみもそんなにしょぼくれた顔をしていないで、たまには気分転換でもしてみたらどうだい。世界というものは思っていたより広くて楽しいものだよ」


 僕みたいな境遇は稀だろうけど、と影の男はからから笑い声を上げた。


「おっと。そろそろ日が沈む頃合いだしもう行くよ。僕は明るいところじゃないと留まれないんだ。今夜は月が出てくれると助かるんだが……ああ、残念。雨のようだ。それじゃあ、さよなら。その――倒れているきみの友人にもよろしく」


 

 ……私の主はいつ目を覚ますのか。研究に息詰まるともう嫌だ疲れた助けてくれと半狂乱に陥りながらそこらじゅうを転げ回り、三日三晩と表現しても大袈裟ではないほどに長い時間の眠りに就いてしまうのが常ではあるが、そのたびに見守っている存在がいることにもそろそろ気がついてほしいと思うのは身勝手だろうか。


 影なんてその程度のものさ、と独り立ちした影の男の言葉をつぶやく。

 ああ、ようやくお目覚めのようだ。私の声は聞こえないだろうが、起床の挨拶だけはしておこうか。

 おはよう。今日もまた、よろしく。[了]

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