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また明日

 今日で世界が終わるという。つい先程友人と話している時に初めて知ったのだが、世間的にはどうやら随分前から騒がれていて、聞く話によれば終末を祝う祭りなんかが毎日のように開かれているらしい。知らなかった私が言えたことではないが、なかなかどうして呑気なものだ。


「焼きそば、りんご飴、かき氷……本当に祭りみたいだ」

「そりゃあ祭りだもの。しかもなんとタダだよタダ。好きなだけ食べられるのだよ」

「大盤振る舞いだな」

「今日で世界が終わるからね。どこのお店もそうなんじゃないかな」


 友人と共に出店の群を練り歩く。どこの店にも人が並んでいて、本当に今日で世界が終わるのだろうか、実は世界規模での大掛かりな嘘だったのではとほんの一瞬考えてみたりもして、やめた。


 弾ける音に薄暗くなり始めた空を見上げてみれば花火が打ち上げられていた。色とりどりで華やかなスターマイン。過去最大規模のものだという。最後ともなれば、やはり派手に終わりたいのだろうか。


 店番の親父に念のために持っていっても良いかと確認し、焼きイカを一枚貰ってかじる。少し固く、塩味が強いように感じたが悪くはない。


「他の皆はどうするんだろうな」

「それも聞いてないの? 学校に集まってキャンプファイヤーを囲んで踊るんだよ」

「何だそれ。いいや、家で寝てるよ」

「私もパス。君がいないならいいや」


 神社を抜けて海沿いを歩く。浜辺には人々が集い、談笑を繰り広げていた。軽快な音楽に肩を組んで身を揺らす者がいれば、砂浜にただ寝転んでいる者もいた。

 


「君は何かやり残したことはあるかい」


 ふと、友人が尋ねてきた。次々に打ち上げられる大輪の花に照らされたその表情は、いつもと変わらぬ調子で微笑んでいた。


「宇宙飛行士になりたかった」

「ほう」

「今は深海に潜りたい」

「欲張りだね」


 とりとめのない会話が続く。この前見たテレビ番組が面白かっただとか、昼食に食べたプリンが美味しかっただとか。そんな、なんでもないことを話しつつ、お互いの家に続く道を緩やかに歩いていた。


「それじゃあ、また明日」

「明日はないんだけどな」

「それでもまた明日と言いたいのさ」

「そうか。それじゃあ、また明日」


 恐らくこれが私と友人の最後の会話なのだろう。また明日。私達に明日は来ないが、世界の終わりの挨拶なんてそれくらい簡単なものでいい。

 私はそう、思うのだ。[了]

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