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太陽と月  作者: Limone
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もう少しESUのターンが続きます!



ゾネには会ったことはあるような、無いような記憶が曖昧だが、僕に何かしらの助けを求める様な雰囲気も感じとれた。

じっとしてられない、今から街へ出てすぐに、すぐにゾネの元へ向かおう。


食べようとしていたフルーツの盛り合わせを放置して少し駆け足で部屋の外へ出た。



そのまま街へ来てしまった。ソレイユに何も言わずに。また心配を掛けるだろうか。そんな事は頭にチラつきながらも街を歩く足は止まらない。

手紙に住所と通っている学校の場所が書かれていたので、まず学校の方へと向った。

屋敷からはそう遠くは無いので、ゾネの姿は覚えていないが、キョロキョロと学校を見回してしまう。そうしていると、学生たちの視線がナハトにとぶ。

物珍しさとナハトの綺麗な容姿に見惚れるようだ。最も、ナハトはそんなことを感じずにゾネの姿を探す。


そうしていると、


「ナハト様?」


ソーレによく似た声が聞こえてきた。小太りで髪がソレイユとソーレと同じ黒髪に毛先が真紅だ。

絶対に妹のゾネだ。

ナハトはゾネに駆け寄ると、


「この手紙を出したのは君だね?ゾネ」


確認するために目をガッチリと合わせる。


「はい!そうです!ゾネと言います。姉達がいつもお世話になっている上、お手紙のご返事を直接貰えるなんて!ありがとうございます!」


元気に溢れた大きな声が響く。

ソーレとソレイユの笑顔か混ざったようなゾネの笑顔に思わずナハトは笑みをこぼしてしまう。


「今は学校だよね?流石に抜ける事はできないよね…?」

「いえ!そんな事ありません!日々コツコツと授業をとっているので、授業の1つや2つ多少出なくともどうにかなります!それに…今ナハト様が来てくれたのは必然!!私は準備して待っていました。今すぐにでも私の家へ戻って手がかりを調べに行きましょう!」


いちいち元気の良い声に驚きながらも、少し苦笑を浮かべる。


「でも、ちゃんと学校はでないとお姉さん方に怒られちゃうよ?あと僕のせいでもあるのは、申し訳ないよ」

「そんなことないです!怒られるかもしれないけど、今を逃したらもう、無いかもしれません。今日聞いた声も今日だけかもだし……とにかく!必然だったんですよ今日は。だから今動きます」


ゾネは強引にナハトの腕を引っ張り準備していた大きなリュックを背負い、学校から飛び出していった。


「ハァハァ…ハァ………」


ナハトが息を整える間もなくゾネの家へ着いた。


「ここです。姉達がいない時間はあと2時間程度。2時間立ったらソーレ姉が帰ってきちゃいます。その間にできるだけの事を教えて下さい。」


ゾネは息1つ乱れていない。とんでもない体力だ…と、考えて間もなくナハトはゾネの家へ入り、簡素なログハウスの居間へと案内された。

家の静けさをそのままとっておいたような本当に深閑な机と椅子、近くの棚には古い写真立てに3人の幼少期の写真が飾ってあった。


すぐさまゾネに座らされ、簡単な紅茶を出された。

息をつく間もなく淡々とこなすゾネはソレイユを思わせるようだ。


「簡単なお茶ですがソレ姉が作ったものです。美味しいですよ」

「ああ、ありがとう」

「ナハト様。私は姉達に何を隠されているんですか?この家に何が関わっているんですか?お願いです。教えて下さい!!」


座ったままのナハトにゾネは深く深く頭を下げて大声で言った。

ナハトは驚きを隠せず、声に出てしまう。


「い、いや、何を?!そんな、ね?」

「いえ、そんな事ありません。私達姉妹にはいつも言葉が足りません…。だからこそ、私は知りたいんです。いえ、知らなければこのまま姉達に背負わせてしまっている重要な何かを私は知りたいんです!」


ナハトもソレイユとソーレの「何か」についてはそう深くは知らない。昨日知ったばかりなのだ。それも言わずにこんな事をゾネに言わせてしまっていいのか…。

罪悪感が喉に触れる。


「僕も、彼女達の事は深くは知らないんだ。僕もゾネ、君と同じ状況に近いんだ。使用人と主人、その垣根を僕から越えていいのか、悩んでいたが…僕は行動に移してしまう性分でね、昨日、少しだけ手に入れた情報を共有しよう」


正直な事を告げた。嘘をつく必要も自分を大きく見せる必要も無い。

だからこそゾネと秘密を紐解いていこうと思った。


「ナハト様もそんなに多くは知らないんですね…でも、その昨日手に入れた情報って何ですか?」

「ああ、うん、これだよ」


昨日手に入れた旧記をゾネに見せた。ゾネは目を丸くさせ、旧記を丁寧に持ち上げ、ページをゆっくりめくる。じぃっと文字を見つめる。

ページの真ん中には挿絵が入っている。3兄弟勇者それぞれが剣、炎、手を掲げている。次のページの真ん中には姉妹が2人で手を合わせて見つめ合っている絵だ。その絵は古く、見えづらいものだが確かに彼ら、そして彼女らの信頼がヒシヒシと心の奥にしみていくような絵だった。

ゾネは3兄弟の挿絵に手をかざす。まるで、その絵から真意を汲み取っているかのように優しく、靭やかに。ゾネは暫くして顔を上げてナハトを見る。


「ナハト様、この話に私は感動…いや感動出はなく…こう…言い表せることができないものを感じました。それは3兄弟の熱さなのでしょうか?それとも姉妹の温かさ?…わからないけど、素晴らしいものを感じさせてくれました」


ゾネはさっきまで熱意で溢れかえっていたのに急に落ち着いて、ナハトに語りかける。


「あと…この3兄弟の3人目私みたいなんです。樹と対話できる者。って何か私…生きてきた中で何度も何かに話しかけられている経験があって、それでそれを街で話していたら変なのに連れ去られた事もありました。この私の経験ってその話に通づるものじゃないでしょうか…もしかして私は毎回、樹に話しかけられているのかもしれませんよね…おとぎ話みたいですけど」


ゾネは自分で言った言葉に苦笑しながらナハトに語りかけてくる。ナハトはそのゾネの言葉を真剣に捉えた。

仮にゾネが「樹」の声を耳にしたと言うならば今回ナハトとゾネが会ったのも虫の知らせならぬ樹の知らせかもしれない。3兄弟の「ボスコ」の力を受け継いでいると考えてみればこの旧記の記録は有力であり確かな手がかりとなり得る。


「…その聞いた声って言うのはいつ頃からなの?」

「えっ…あ…えっと確か、5歳位の時に聴いたのが初めてですかね。それがどうしたんですか?」

「もし君にこの旧記のボスコの力である、樹と対話できるという能力が確実にあれば、昔のことを樹から聴き出せるかもしれない」


ゾネは驚いた。


「そんなことが?!でも、私にそんな力なんて…!だってもし私に本当に力があるなら…もっと裕福な筈です!ありえないっ」


ゾネから零れたその言葉には憎しみだった。もっと裕福であれば2人の姉たちは苦労せずにすんだ。学校も行けた。こんな貧しい暮しをする訳もない。ゾネは心の底から自分の地位というのを恨んでいる。


「待て、その力というのはなんだ、君にとってお金になるような能力なのか?あったとしてどうお金に変えるんだ。意味を理解しかねる」


ナハトは至って真面目な口調で淡々と述べる


「え?だって…当たり前じゃないですかこんな能力あれば、私を売ればどうにかなるじゃないですか」

「本気で言ってるのか」

「勿論です。私はもう十分姉達から色々な物を与えられました。これ以上負担にさせたくない。与えられるだけじゃ嫌だ!!!」


ゾネは遂に感情が高まり、涙と共に言葉が弾け飛んだ。

その言葉には怒り、苦しみ、憎しみ全てが含まれている。ナハトはそんな気持ちを受け取るのが厳しく、黙り込んでしまった。

ゾネは悔しくて仕方無かった気持ちを出してしまった自分に対する後悔と止められない涙にうつむいた。


「やっぱり君は知りたいっていう感情だけじゃないんだな」

「え…?」

「だって俺はほぼ思い立ちでこの旧記を調べようとしたに対して君ははっきり理由があるじゃないか、与えられるだけじゃもう嫌だっていう強い感情が。俺よりすっごくしっかりしてるよ、本当」

「よ、よくわかりません」

「なんで?簡単な話さ、俺は薄い気持ちなのに対して君は素晴らしい感情を持っているよ」


ナハトはゾネが羨ましかった。姉を思いやる気持ち、実行できる勇気、助けたいという真っ直ぐで陰りのない瞳その全てが自分に欠けている。

だってそうだ。兄弟であるのに、助けになりたいと思うだけ。行動にできない。助けようと思って行動しても邪魔だと言われて引き下がるしかない。無力だ。


「なんでそんな自分を追い詰めているんですか?」


涙を拭いながらゾネが言う。


「追い詰める?何が?」

「だって、ナハト様も私と同じじゃないですか、姉達についてもっと知りたい、助けたいって思ったから私の元へ駆けつけてくれたんでしょう?それはもう立派な事では?だってナハト様は私と違って立場や地位が邪魔します。主が使用人に介入するなんて滅多にありませんよ…思っても頭でっかちな貴族はプライドがかって行動になんて到底移すことなんてありませんもの。ナハトさんは凄いです」

「…」


そうなのだろうか……


「あ、ごめんなさい、感情が高ぶったり何か色々しちゃって…もう、大分時間が立ってしまいましたね」


家の時計を見ると1時間以上時が流れていた。


「ごめんなさい。せっかく来てくれたのに今日はありがとうございます。ソーレが帰ってきちゃいますから今日はこれで終わりましょう…」


ゾネはゆっくりと玄関の扉を案内する。

ガチャ、扉を開けてナハトは寂しいような背中でゾネの家を後にした。



読んでくださってありがとうございます!

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