秋の朧
秋の朧
立ち竦む 秋の夕暮れ 寂寞に 耐えかねて 折るものは ススキの茎
丸く 朧げな月を 胸に抱きしめる時 それはあなたを 思い出す時で
その刹那 大切なものをふたつ これほどに 抱え込めるとは 思ってもみず
ただ
抱え込んだだけ その重さに 苦しめられ 涙 流れ出るのを どうにも止められず
拭う手の 甲の白さに 浮かぶ青とも緑とも言えぬ 細い血管
生きることは 朱い液を全身に張り巡らせること
その末端は これほど重く 抱きかかえる苦しさに どうやら無関心と言える
ああ
苦しさに 我慢しきれず 手離すと決めたのは 驚くなかれ 丸い朧の 月の方
病んでいるのか 自分でも それを制御 できないくらいに
感情の糸を 操り人形のごとく 操ることができたなら どれほど楽になれるのだろうと 思う
今日も 長さの違う まるで言うことをきかない操り糸に 悪戦苦闘し 苦笑する
けれど
けれど
せっかく 朧の月の方を 手離したのだから
ようやく 軽くなった この身を起こして 立ち上がり
あなたを この手に 抱え直して
落としはしないし 失わないように
そして それだけでは足りていない 第二のなにかを追い求め
人の 操り糸を 理解するための
準備をする
夕暮れの空 寒々しく 烏が鳴き その声 茜に響く
手折った ススキを かかげてみる その穂 しゃらんと揺れて 橙に染まる
哀しみが 胸に溢れて どうしようもなく 寂しくなり
この腕に 抱える あなたと摺り替え
答えのない 曖昧さに 翻弄されるも いつか
朧の月の方を 選ぶべきだった
そう思う時が 来るのだろうか
果たして そんな日が 本当に 来るのだろうか と