魚魚魚っ
ここんとこ、してないなぁ……。
手先が震える。
なんと面倒な作業か。
視力が覚束ないながらも
ごく僅かな穴へと糸を通す。
先端に仕掛けられた擬似餌。
果たして……
このような罠に引っ掛かるのだろうか?
疑問はそこそこに
緻密な作業に没頭する。
「……よしっ!」
鋭利な針が刺さった擬似餌。
なんとも痛々しいが達成感が先立つ。
不格好な仕草。
大股を開き
しなる竿をふりかぶる。
辺りに漂う囀ずりは
麗らかな季節の到来を告げていた。
掛け声はなくとも
着水音が限り無く
静けさを醸し出す。
息を潜め
成り行きを待つ……。
微かな手応え。
地球を釣ったのではない。
食欲に負けた魚が
拙い餌につられたのだ。
逃がしてなるものかと
弓なりにしなる背筋。
手元は激しく唸る。
忙しなく巻くリール。
水面上に見えた魚はどうやら
激しく抵抗しているようだった。
数刻
汗が滲むほどの壮絶なバトル。
ようやく観念した魚は
大地で果て絶えたようであった。
記念にと
取り出した最新機器。
空を舞う猛禽類を余所に
撮影をしようとした その時……
死んだフリをしたヤツは大きく飛び跳ねる。
ゆらり ゆらり
遥か彼方へと身を潜める魚影は
がっくりと膝を折る私を嘲笑うかのようであった。
だが挫けることはない。
夕闇迫る湖畔にて
尚も たぎる釣りどれん。
未来は厳しい現実に
ただ今だけは許しを乞う。
足らす釣糸は……
一切
張ることはなかった。
帰り間際
復讐を誓う。
やがて……
辿り着いた食卓には
忌々しげな一匹が見映えも豊かに陳列されていた。
皿に盛られていたのを目にしては悔やむ。
逃した魚は
大きかった……。
寂れた釣竿と錆びたリール。
釣り道具って、意外にもお高い(爆)