悲しみの拭い去り方
悲しみを拭い去るには、どうしたらいいのだろう?
食べること? タバコを吸うこと? ヤケ酒?
今夜の由希さんは、荒れている。
普段、私の前では、飲まないお酒を飲んで、彼氏の話を続けている。
由希さんは可愛い顔をしていて、49歳には見えない。
私は由希さんより9つ、年下だ。皆、同じ会社だった。
由希さんはセミロングの髪をかきあげながら、
「茉莉ちゃん、亮太に電話して?」
「うん。」
時間は深夜1時近く。
私のスマホから、亮太さんに電話をした。亮太さんは私の電話番号を知らない。部署がまるで違うため、面識すらない。
由希さんと亮太さんは付き合って3カ月だ。
イケメン俳優に似ている亮太さんは42歳だ。
3人ともバツイチだ。
亮太さんは、言ってはいけないことを口にした。
「若い女がいい。」
それを聞いた由希さんは、
「じゃあ私も他の男に抱かれるわ。」
と、言い放った。
由希さんも口にしてはいけない事を言った。
あれから、お互い、着信拒否をして、ラインもブロックしている。
この週末は、由希さんは私の家に泊まりに来ていた。
亮太さんはすぐに電話に出た。
「私からの電話は着信拒否してるのに。」
と、由希さんは、少し怒った。
「もしもし?」
亮太さんは訝しそうな声で、電話に出た。
「もしもし? 由希さんの友達です。由希さんがケンカしたこと後悔していて、お酒を飲んで大変なんです。」
「ああ! ハッハッハッ-!」
亮太さんは笑い声を上げた。
「電話かわってもらえませんか?」
「いや、それはいいから。」
「でも、謝りたい、て。」
「謝るなら、目と目を見て謝るものだろう?」
「そうですね。由希さんに伝えておきます。」
「それじゃ。」
「はい、失礼します。」
電話を切ったあと、
「なんて?」
と、由希さんは、いそいそと聞いてきた。
私は内容を伝えると、
「そんなこと言ってたの! 良かった! 本気で怒ってない!」
と、喜んだ。
「目と目を見て謝れ、て、言ったの-! そうなんだー!」
由希さんはお酒で赤いのか、亮太さんの言った言葉で赤いのか、よくわからないけど、頬を朱に染めていた。
「明日、会社で会ったら、朝礼始まる前に謝る。」
と、やっと素直に、
「謝る。」
と、言った。
どちらもどちらのケンカ。
私は由希さんの持ってきたハワイ土産のマカダミアナッツを口にしながら、
「良かったですね。」
と、言いながら、マカダミアナッツをぼりぼり頬張った。
女二人の夜は、亮太さんの話で盛り上がりながら更けていく。
その夜、一緒のベッドで寝た由希さんは、夜中に何度も寝ぼけて私に抱きついてきた。
素直になるのが一番だよ、由希さん……。
と、私はそのたびに思った。
でも、由希さん……腕をバーン! と、私の胸に置くのは止めて。痛いから……。
こんな夜を二人は過ごしているのだろうか? と、少し苦笑いしながら、由希さんが帰ったら、私も渉君にラインをすることにした。
渉君は片思いの人。悲しい思いをする間柄でもないけど、素直な気持ちで付き合いたい。
照れてしまうけどね。
そんなことを思ってると、由希さんの腕がまたバーン!と胸に置かれた。
素直になる、て、痛いこともあるのかしら? と、苦笑いの続く夜だった。
幸せなら、それでいい。
カーテンの隙間から月が見えて、私達をぼんやり照らしていた。