気にせず【9/29修正】
「お風呂場あっついよ」
背中まで伸ばした髪をカシカシと拭いながら居間に戻る。
階段下の壁が外され、脇によけられていた。
どうやら、本当に隠し部屋になっていたようであるが、壁を戻さなかったのはどうしてだ。
「ほっほう、面白い作り方してあるんだね」
こういった造りをしている場所は、泥棒なんかに物を持ってかれないようにするための部屋なんだろうけど、本職なら丸わかりだろうから大した物は保管して置けないだろね。
「あ~、サラン悪気はなかったんだがツい」
「済まない。デリカシーにかける行為だった」
隠し部屋に頭を突っ込んでいるとマイトとアランが謝罪の言葉を口にする。
ライズはペコペコと頭を下げながらひたすら拝んでくる。
もう覗かないでね?
「うん、そんなに気にしてないからオレの次誰か風呂入ってご飯いこうよ」
お腹減ってきたからさっささっさと済ませてほしい。
「美少女の残り湯か…どうする」
「…サランの次か、誰か入るか?」
「纏めて入って終わらせるか」
「あ、そうするか広いから三人ならギリギリいけるだろ」
「…美少女の残り湯の争奪戦もなしとか」
マイトとアランの言葉にライズがガックリとうなだれた。
そんな争奪戦されても困るけど、妥協案が全員で風呂とか雑だな。
「すぐでるから」
マイトが言い残して風呂場に入っていった。
「了解、もしぬるかったりしたら言ってね?薪くべに行くからさ。」
「直火炊きだからわざわざ呼ばないよ!?」
鉄風呂の下から火をたいて温めるから、薪くべるのに風呂場に入らないだからな。」
頼まれたなら、ニアミスしても覗きではない、むしろセクハラで訴えてやれみたいな?
「はいよ、」
…なんとなく寂しい。オレも一緒に入ってしまおうか。
やらないけどさ。
『なんだ、アランは体流すだけか』
『意識してしまうとどうにも入り辛い』
『そんな、気にしなくてもサランなら何も言わないよ』
ザバー
『言わないだろうが、私の心象の問題だからな。む、指にサランの髪が…』
『ああ、赤金色だね。珍しい髪の色してるよね』
『確かに、これだけ綺麗に赤と分かる髪をした者は居ないな。もう少し伸びたら売るつもりだったらしいが、剣の飾り紐にまぜれば綺麗だからいい値が付くだろうな』
『売るつもりだったのか…』
『それよか、それ頂戴。美人の髪って確かポーションの色が変わるなんて言うから欲しい』
『む、髪の毛とはいえ本人に黙って渡すのも悪い気がするのだが…。』
『いいよどうせ聞こえてるだろうしさ。もらうよー?』
「はいはいどうぞー」
大きな声で話てるから確かに聞こえてますけど、ライズは遠慮ないねー。
『ほら大丈夫だったでしょー?なんでマイトがにらんでくるのっ!?』
『……変な事に使うなよ?』
『髪の毛に、他の使い道ってあったかな~』
『…ないならいい』
『やれやれ、マイトはあまり気にすると変に思われるぞ。所で髪の毛で味は変わらないのか?』
『変わる訳ないだろ。二三個試したら燃やしとく』
『味が同じなら手間加えても変わらんか…』
『作ったら試さないでサランに渡してやれよ』
『わかってるよ』
…抜け毛って最後は燃やされるんだ。
そして、物珍しさに作って味見なしで渡されるとかモルモットと変わらないんじゃないかな。だが、翌日も翌々日も髪の毛の色のポーションは姿を現さなかった。
失敗したのか。ちょっと自信があったけどそれほど美人でないよみたいだ。
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夜中のライズ
「なんで、ポーションに髪の毛追加したら蜂蜜水が出来るんだ…」
しばらく彼の秘密の研究は続く。
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音楽に合わせ数人の舞り子が壇上で踊っている。
胸あたりの高さのテーブルに乱雑に並べられてゆくツマミの数々。
過去に遠目に見て歩きはしたが、冒険者ギルドでみた大人たちがいたから近づかないようにしていた。
酒場と思っていたが違ったらしい。
「こんな集まりあるんだね」
「こういった場所に名前はない。一般人は入れない冒険者専用の非営利の盛り場だ。
すまないが、テーブルにジンジャーエールの追加を頼む」
話しながら、アランは黒服にチップを渡して注文をしている。
「ちなみにチップをけちると何も運ばれてこないから気をつけろ」
「俺みたいにな」
ライズが胸を張って笑ったが、お酒なんか頼んだのが悪かったんじゃ?
猫ばばされてるしいみないじゃん。
「しかし、普通は集まりの事は知ってるもんなんだが…」
日が落ちてから始まる集まりだし、日の入りと同時に夜は寝て、バイト始めて人目を避けるようになってたし、あまり人と話ししなかったから自業自得だよね。
「たしか13才に家を出されて、それからだから未成年だと教えて貰えないんじゃないか?」
「王都には、ポーターの子供が入り浸ってただろ」
「スラム街から来てる子供ばっかだったろ。
田舎になるほど大人の目が厳しくなもんなんだよなサラン」
都会しかも王都育ちのアランとライズに、マイトが説明しているのだが、多分マイトは王都近郊の農村部なんだろうね。
こちらの感覚と少し違う。
「いや、こうゆう場所って人攫いが居てもわかんないから近づかせないんだよ」「…田舎怖いな」
うん、人攫いに会わないように育てられるから、聞いたことはあるが実際には見たことないけどね。
「…王都も迷子や探し人の依頼も沢山あったな」
「田舎は偶にだから発覚するんだろうが、王都のスラム街とかでは日常茶飯事かも知れないぞ」
酒場とかの営業に響くから毎日やってる訳じゃないらしい。
でも、うまくしたらタダ飯くらいはありつけたんだろうな。
いや、バイトでご飯は食べれてたからなおさら冒険者生活から足が遠のいてたし…。
「なんにしても、三人が来なかったら知らないまんま引退してたんじゃないかな?」
「流石にそれはないだろ」
「まともな冒険できてなかったからバイトのが充実してたんだよ。今日だって足手纏いだたただろ?」
「…いや、囮の才能あるよ」
「あんなもん、女相手ならいくらでも湧いてくるわ」
ゴブリン限定の囮の才能なんて嬉しくもないわ。
「普通を知らなきゃそうだろうが、あの方は湧きは異常だ」
「あれも魔物の端くれだしさ、呪いに引きつけられたりするのかもしれないね。でも、単に臭いが変わったのかもしれない。そこはライズの魔法知識でわかったりしないか?」
「そんな魔法はない、魔法で匂いなんてわかってたまるか!」
「いや、でも前にカナリアとか…は、お風呂入って貰ったし明日は大丈夫だね」
カナリアってトンネル掘るときなんかにガス感知の犠牲に連れて行きますね。
体臭にカナリアとかひどすきませんかマイトさん。
「真剣な話ししてくれてるんだけど、冒険者やっぱり出来なそうな気がしてきたわ」
「俺たちがいれば大丈夫だよ」
「私も魔族と差し違え損ねた男だからな」
…ん?差し違え損ねた?
「それがさ、トドメをさして呪われるなら同時に死ねば呪われないんじゃないかと思ったなんてバカいいってさ」
「差し違えて自分も死にかけるとは思いつかなかった」
―たちの悪い脳筋でした。
「確かに、呪いの被害はトドメ差した人だけと俺は言ったが、差し違えたら意味ないだろうがっ!」
「どの道、アソコでをムチャをしなかったら、魔族から離れられなかったからしかたないだろう」
「あの、その話はやめてもらえりゅと嬉しいです…」
ここにそれを上回るバカがいるんで勘弁してください。
生きてるからいいや、なんて口に出せない状況なんで…。
「ああ悪い。そのあたりはまた落ち着いてから話ししようか?」
「いや、感情的になっても良いことがないと分かったから大丈夫だ」
「それに、今更だからまた今度な」
あのー、解決しないで先延ばしにするのもチームワークですか?
「とりあえず明日は草原だし、俺は狩り場の情報集めしてくるよ」
ライズが早々に離脱しようと席を立ったけど、今からギルドにでも行くつもりなのかな?
「それから、マイトの剣も一度しっかりとした店で見てもらったほうがいいな」
「まだ切れるし、大丈夫じゃないか?」
「磨耗する前に手入れしておいた方がいいだろう?」
「だけど…」
マイトさん、そこをケチらないで修理に行くと言う案はダメですか?
「魔法も前衛ほどの汎用性があったらよかったんだけど、そうも行かないから仕方ないね」
魔族の戦いを経ているから、アタッカー二人の武器の磨耗具合が気になると話してるけど、草原は草原でありきたりなウサギしか居ませんよ?
「オレとか子供がウサギ捕まえにいく位だから、草原は情報集めるほどの場所じゃないと思うよ?」
たまに、魔狼がウサギを食べに出てきてたりするけど割と安全さ。
ただ、料理が上手くできないと硬くて美味しくない。
アルバイトやる前は料理なんか出来なかったから、倉庫の所で自分で焼いて食べるだなんて考えもしなかったね。
でも、この三人なら草原ウサギを狩るのに警戒もいらないと思うよ?
「んー、だけどそこも見知らぬ土地での世間話も冒険の醍醐味だからね」
世間話か、オレあんま話して歩かないからダメみたいね。