裏切りとは?【9/28修正】
男の時にも何回か追われた経験があるけど、その時には、“ヘチャムクレのゴブリンに追われた”って感想だったんだ。
それなのにさぁ。
今マイト達が倒しまくってるゴブリンは、目を血走らせ不快な表情に顔を歪ませた、“醜悪なゴブリン”になっていた
灰色と緑の肌をした5才児くらいの身体から、自分に付いていたアレよりデカくて異形のアレが股関から突き出してんだからたまったもんじゃない。
人の子供みたいに体に見合ったサイズだったら何の怖さもありゃしないと思うのだが、腕や足と対して変わらん。
女を見つけたゴブリン達が群れすらなさずにただひたすらオレを目指して突き進んでくる異様な光景を目の当たりにして腰が抜けそうだ。
「うち漏らすな!一匹残らず換金するぞっ!!」
「「おうっ!!」」
それはそうと、女の匂いに引き寄せられたゴブリンを次々に葬ってゆく三人に現在オレはドン引きである。
引け目と劣等感より、強さが人外クサい。
風下側から鼻息荒く向かってくるゴブリン達に、そういや独房で体拭いてるだけだったのが原因だと理解できた。
オレの体臭をたどってゴブリンがやってきているらしい。
ギルド長が一人で森に入るなと念を押した理由がやっとわかったよ。
ある程度以上の強さがあって連れ去られなければ、ゴブリン狩りだけで女冒険者は生活がなりたのかも知れないが、如何せんソロで相手どるには数が多すぎて苗場にされる確率のほうが高すぎるわ。
てか、この三人が強すぎるから助かっているけど、もし一人だけで来ていたら、今頃オレはお持ち帰りか此処でゴブリンを相手にさせられていたかもしれない。
ゴブリン達のあの顔をみてしまった後では、泣き叫ぶとかそんなレベルで済ませてくれない事は想像に難くなく、頭のどこかが想像にストップをかけ懸命に否定するくらい恐ろしいのだ。
マイト達と来て経験する事が出来たのは間違いなく幸運だった
ゴブリンがいる森は今後絶対一人じゃ入らない。
入る勇気なんか一生持てないと思う。
それから、確かにマイトは魔族相手に悔しがれるだけの強さがあるんだってなんとなく理解できた気がした。
三人の戦う背中は逞しく、ゴブリン達では束になっても敵わないのだとオレを安堵させてくれる。
なんというか生き物としての格が違う。
普通なら強敵相手に生き残れて良かったと安堵するんだろうけど、そこで悔しがれるのが彼らが本物の【冒険者】だからだったからなんだなと思わせてくれる。
男ながら、本気で憧れてしまうくらいに恰好いい!
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「…もう来ないかな?」
マイトは、そう呟きながら迫り来るゴブリンを全て両断し続けた剣を下ろした。
「ライズ、三桁くらいいったか?」
「余裕で120はいった。奥に行けばまだいるよ絶対」
血にまみれた槍を拭うアランにライズが興奮した様子で答える。
途中から戦闘は二人だけに任せて、ライズは解体に勤しんでいたんだよね。
まだ魔法力にも余裕があるらしくて、一人でペンチをテキパキと動かし、角や牙を引き抜いて地面に開けた大穴にゴブリンを投げ捨てている。
なんか知らんが、ライズがやるとゴブリンの角があっさり抜けるんもんだからこれまたビックリした。
そして、オレは木の上からその様子を見ているだけで精一杯だ。
「サランもう降りてきても大丈夫だよ」
「いや、マイト解体は私たちでやろう。まだ来るかも知れないからサランにはそのまま見張り役を頼みたい」
「わかった、サランそのままで頼む」
正直あまりの凄惨さにコクコクと頷くのが精一杯である。
我ながらあれだけ気持ち悪い感情を向けられ続けてよく意識を保ってられたと思う。
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場所はギルド、買い交渉をしていたライズが金袋と一緒に書類の束を手に歩いてきた。
「十二万三千になったぞ」
「これだけあれば、当分宿には困らないんじゃない?」
「いや、サランも自宅ないらしいからな。風呂付きの借家とかありそうか買い取り交渉のついでにライズに受付に…聞いてきたよな?」
「いや、聞いたらなんか分厚いリストだけ渡された。
俺らはまあなんでもいいし、サラに選んでもらう?」
「そうだな、サラに選んでもらうか、マイトもそれでいいよな?」
「僕は別にサラに選んでもらっていいよ」
「サラ、アランがリストから住みたいの選んでいいってさ」
金額に驚いてる間にクルクルと状況が変わりこちとらてんてこ舞いである。
「きゅ、急に選べと言われても…」
月何万と部屋の広さだけでは何がなんだか分からない。
バイトで六万がやっとだっただけに、四部屋タイプが月八万とか頭おかしくなりそう。
「部屋は4つもなくて大丈夫だ」
「俺とマイトは床派だからなベッド無くても大丈夫だし」
「最悪男女でわかれられるように二部屋もあればいい」
風呂付き2DK?風呂付き3DK?うう、みんな五万以上して高い。
ペラペラと紙をめくるが、どれもこれも値段が高い。
「三万くらいの大きめな倉庫とかじゃだめかな…」
「とりあえず倉庫は忘れろ。不衛生だし、部屋くらい分けて生活しないと後々困るぞ」
「…着替え以前になんで一緒に住むことになってんだよ。おかしいだろ」
「いや、仲間なら普通だよ?」
「確かに、別々になる方が少ないし、サランが体に慣れるまでの安全は保証する」
アランが、遠巻きに様子を見ていた男たちを指差したが、毛皮被ってなかったからすっげ顔を見られてたらしかった。
「どうせなら、慣れた後まで貞操の安全も保証してくんない?」
「「「りょ」」」
軽い返事で三人ハモるとか軽く泣きそうだよ。
「体臭も変わったみたいだから、これから気をつけろ。
王都だと、夜中に来た貴族のボンボンに金を積まれて、部屋まで案内する下働きとか居るから、宿屋もあまり信用しないほうがいいな」
ストーキングされた挙げ句の果てに夜這いされるとか勘弁して、王都が魔窟過ぎて怖いよう。
「うう、そんな情報欲しくなかったわ…」
サラモードになって両手でを伏せたのだが、間髪いれずにマイトが大声をあげた。
「あ、六万なのに一戸建て発見!!」
「…まじかよ」
「流石は田舎だな。王都なら十五は下らんぞ」
三人が見ているのは、月々の支払いが六万の中古住宅だった。
買い取りも出来るようだが安くはない。
「一階につき一部屋の三階建てか」
「屋根裏もあるね、二人が二階でサランが三階、俺は屋根裏がいいな」
「いいのか、今から暑くなるぞ?」
「夏の暑さは魔法があるから大丈夫大丈夫」
「なら、これにするか。すいません、この物件見せてもらえますか?」
言うがはやいか、マイトは開いたページを事務員さんに見せに歩いていった。
どうやら、オレの意見を某と言う言葉は見事に忘れられたようだ。
オレにも見させてよ。
「すぐ使えるらしいから案内してくれるってさ、お金も先に払ってきたよ」
マイトは、軽くなった金袋をチャラチャラとならす。現物見てないのに勇気あるな。
「人前で金を鳴らすな!」
そして、アランに槍の石突きで頭を叩かれた。
「バツとして、マイトはサランの荷物を持って来るんだ」
「たく、見てもないのに本決まりにしやがったしな」
「うぇ~い」
ヨタヨタと独房に向かうマイトにアランが追い討ちをかける。
「マイト、下着は漁るなよ?」「…多分大丈夫だ」
―多分て…。
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つい先日まで人がいたらしく綺麗な建物だった。
「ひと月くらいなら、薪とか買い足さなくて良さそうだ」
「ここ、先週までマイルズさんが住んでたらしいぜ」
「あの人、一人暮らしじゃなかったか?」
「屋根裏以外は酒樽置いてたらしいな」
床に残された跡を見てアランが呟いた。
そこに樽を支え差ていた台の凹みついているらしい。
「その割に酒臭くないな」
「昨日まで、窓全開にしてたんだって」
「自家製でウィスキーとか頭おかしいよな」
「酒好きもそこまでいけば立派なもんだ」
ワイワイガヤガヤ三人が家の探索をしている。
オレは三階に荷物を放り込まれ一番風呂に押し込まれた所です。
全力で押し込まれるほど臭くはなかったと思いたい。
「あれ?この壁動いたぞ??」
「本当だ、なんか奥行けるみたいだ」
「なんだ、いきなり隠し部屋発見か?」
「間取りとしてはもの入れみたいだ」
お風呂の壁の裏側でゴソゴソと音がする。
階段下になる場所あたりだから、防犯用の見つけにくい収納にでもなってるのかもしれない。
「うおおっ?!ちょっと二人とも黙って付いて来て」
「おいおい、なんなんだ一体」
「いいから静かに!!」
壁裏に三人とも入ったようだが、急に家の中が静かになった。オレの背中あたりので完全な無音になる。
「…ちょっと?みんなどうしたんだ?」
通路に向かって話しかけたが返事はない。
湯船から体を浮かす。
『『『…(ゴクリ)…』』』
壁の中にいる三人が喉を鳴らした音がやたら大きく聞こえてきた。
チャポンと肩まで湯船に浸かる。
「…いや、別に覗きは構わないけど少しは遠慮してくんないかな?」
オレは不自然に広げられた壁の隙間に向かって声をかけた。
ゴソゴソと三人が静かに移動を始めたのがわかった。
わかってしまった。
ゴブリンに比べたら覗きくらい可愛いもんだよ。
トラウマになって男嫌いになんてならないに、人とゴブリンの視線は違ったモノがあったからね…。
(一人―)煩悩退散




