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【三】ゆるり

―こちら城壁、本日も晴天なり。


と、やる気が高かったのも最初の数日間だけ、二日間は何もなく、三日目には、サラマンドラ王国の正規軍五千人が到着し、幾つかの有名グループ以外は一時解散となった。


…いや、お前らそれは無いだろうと言いたいことはわかる。

冒険者の中にも還らぬ戦いを予感して盛大にフラグを建てた物も数多くいたらしいが、現実はこんなものだ。

このまま、戦わないで済むかも知れないんだから、私としては正直助かったわ。


みんなが、大量にクナイを買い込んでくれたのもある意味フラグになってくれたかな?


有事扱いで、駆り出された冒険者は食費が浮いた以外は無給だ同然だから踏んだり蹴ったりである。

本来なら、戦場の監督官や記録係といった人達が、戦闘中の功績を記録し、後日倒した魔物から取れた魔石や素材などを売った金から分配金が支払われるから、タダにはならないらしいんだけど、魔物は流れてこなかったから戦闘による上乗せはありませんでした。


で、サラマンドラ王国から来るアーリーウッド奪還部隊の本体は万単位になる予定だそうだが、正規軍が到着したおかげで冒険者にかかっていた規制も解除されたよ。


戦争は本職に任せておけばOK。



して、千単位万単位で人が増えるとなると、依頼の内容も変わる。


―野営地で皿を洗って積み上げるだけの簡単な依頼です。


日給8000


危険手当有り


「…サラ、なんで私は皿洗いなどしてるのだろう」


「つべこべ言わずに手を動かしてっ!!」


私の手から、また一つスチール製の器を小川の水と布で洗い流し積まれる。

右から左へととにかく忙しい作業の中、正気に戻ったらしきアランが手を止め悲しそうな顔で私に問いかけてきた。


「…これは冒険者の仕事ではないぞ?」


「これだって、冒険者の立派な仕事です」


戦う事だけが地域の平和と安定に繋がる訳じゃない。

野営地の五千人の食事の後片付けだって充分地域に貢献しているさ。


「洗い損ねたりで食中毒になったら大変何だからしっかり洗ってよ」


「わかっているのだが、それでも納得行かんぞ」


「苦情は後で聞く」


話してる間にもかかわらず使用済みのお皿が持ち込まれ、洗い終わった物は次々と炊事場に持ち去られていく。


朝昼晩の決まった時間だけ物凄く忙しくなるが、他の時間は概ね自由で縛りがない。


通常なら、1日三千円貰えるかどうかだし、どう考えてもボロい。


だいたい、騎士団の雇用窓口の係りが、配膳でなら一万だすと話していたに乗り気になっていたら止めたのはアラン達じゃないか。


「酒場みたいに、テーブルの間を歩く訳じゃなくて、配膳スペースでよそって渡すだけだからかなり楽な作業だったんだぞ?」


「いや、サラが配膳スペースに立つと、遅々として進まないのは目に見えていたから止めたんだ」


「そんな事ないよー。穴熊で仕事してたし、これでもマスターに綺麗なよそい方とかちゃんとならったりしてきてるんだよ?」


「あまり、騎士が誠実だなどと思わんほうがいい。家柄や階級にこじつけて、無理難題をふっかけてくる奴はザラにいる」


「いや、流石に野営地でそれはないでしょ?」


「…だがな、ライズの見立てでは出入りが激しいテントには強い防音の魔法がかけられてると話していたから、正直目の届かない場所に行かれるのは不安だ」


「なんでよ」


会議とか聞かれたくない話しするための部屋じゃないのか?



「いわゆるヤリ部屋だろう。雇われた娼婦なんかがにいるはずだ」


「いや、それなら配膳スペースに居るくらいなら大丈夫でしょ?」


「馬鹿、貴族のドラ息子にその程度の常識が通用する訳がない。下手に家格が高い奴は派閥の関係で取り巻きやらいるんだぞ。

配膳スペースに居たとしても、ちょっと顔が綺麗なだけで目を付けられて人数と家柄と派閥の名前で周りの騎士を黙らせて無理やり連れ込むくらいするぞ。サラくらいの力では抵抗も出来ない相手ばかりだからあまり近くな」


「…マジっすか」


「貴族の次期当主になると必ず婚約者が居るからな。たまにヤリ逃げされる前提で遊ぶ女もいるが、そうと知らず肉体関係を持って泣かされる女は山ほどいるんだ。望まずに彼女らの仲間になりたくはないだろ」


「いや、それは確かにイヤだけどさ…」


物の例えにしても、もう少し他の言い方なかったかな?



「万が一連れ去られてもマイトが未然に防ぐだろうが、騎士団に居る人間と因縁がつくような事態だけはどうしても避けたい。

それに、忘れたのか?貴族だけならまだしも殿下が来ていただろう」


「ああ、居ましたねそういえばそんな人も」


戦準備やら、周りがバタバタしていたおかげですっかり忘れていましたよ。


「…忘れるな。後日呼ばれる可能性はあるが、殿下の周辺の人間がタダの騎士である訳がない」


「大貴族とか?」


「それもあるが、あの時家の外で立っていたのは確実に護衛だな。それに私が下位貴族の出だ…」


―掻い摘まんで。

貴族社会では階級は絶対で、もしアランが此処で大貴族やその繋がりある貴族と何らかのトラブルを起こした、此処で上手く対処したつもりでいても、王都にいる家族や婚約者さんの家に嫌がらせや仕返しなどで被害がいったりする可能性があるとか。


「それに、騎士を目指して生きてきた連中は女っ気がないから一目惚れする奴が多い。サラは美人だから確実に人目を引くし一目惚れされたくなかったら奴らの目に付かない方がいい。女慣れしていないから誠実で口説く事に遠慮がないからしつこく付きまとわれるぞ」


「はぁい、皿洗いで我慢します」


ええ、なんか危なそうだから大人しくアランに従います。


「だから、なんで皿洗いしなくてはならんのだろうな…」



あ、アランが正気に戻った。


―キリキリ働けぃっ!!

( ̄人 ̄)

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