戦支度
女の人と話して気疲れしちゃったよ。
これ以上出かける気になれず、目の前の自宅へ戻る。
「おかえり、オバサン達となんの話してたんだ?」
「えと、旦那さんが早くに帰ってくるのは不倫をしてるからとか、街の野菜が値上がりしてるとかそんな話しだったと思うけど、そんな格好して何かいい依頼でもあったの?」
疲れてる私を冒険者フル装備のマイトがお出迎えしてくれた。
皮鎧とプレートアーマを組み合わせたような鎧と、この間研ぎに出していたロングソードを背中に背負っている。
アランとライズもいつもの街を出るときの冒険者らしい姿をしている。
そういや、ライズが全員の手甲にクナイを仕込めるように改造してたね。
「朝方、国境の監視をしてた奴らが国境を捨てて退却してきた」
どの程度かまではわからないけど、アーリーウッドの騎士団も連戦続きでのせいで疲弊し、怪我人だらけ。
冒険者も同様で、魔力を回復する間もなく、運んでいった薬が切れた。
予定通り2日後の交代要員がくるまで拠点を維持するか、移動出来なくなる前に撤退をするかで、アーリーウッド騎士団の代表が撤退を選択したんだそうだ。
「指揮官の選択が早かったのは騎士として仕えていた国が既に壊滅し、サンデックの冒険者に頼りきりになりたくなかったからだろう」
「借り物の戦力だと、攻めに出れないからどうしても消耗戦になるだろうしね」
ずっとアーリーウッド側に築いた拠点で魔物の間引きをしてきたアーリーウッドの騎士団だが、国境まで流れて来る規模がは減ることなく、時間がたつにつれ増えてきている事に警戒し手練れだけ集め拠点の向こう側へ偵察部隊をだしたんだと。
で、ダンジョン魔物の足止め役に勘定していた、ダンジョン魔物とは何度か交戦した、野生の獣や魔物を一切確認出来なかったという。
連戦による減少もしくは縄張りを捨て逃亡したのではないかという予想が浮かんだという。
ドラゴンでさえ縄張りに入っただけで攻撃をしてくるわけではない。
視認した物を敵やはエサと判断しなければ素通りしていくだけだ。
もし、ダンジョン魔物が強力な個体と戦い数を減らしたとしても、川などに行く手を阻まれ自然と向かう方向が狭まりサンデック方向へ集中しているのではないかと予想したらしい。
最終的に百を超える魔物の群と交戦した後に、拠点を捨てて撤退命令をだしたそうだ。
魔物の多くがゴブリンやコボルト(犬鬼)など人近い姿をしたモノが多いらしく人の歩く速度で移動してきているらしい。
まとまって行動している群の中には統率している個体がいた事もあったらしい。
で、拠点がなくなったから群がそのまま流れてくるようになるだろうから、街から離れた場所に新たな陣地を築いて応戦する事になるんだって。
で、少しでも敵の進行を妨げるように妨害柵や盛り土を朝から作ってたんだそうだ。
明日の朝には完成している予定らしい。
「…いつ連絡あったの?」
「朝方、職員が内密できたからなあまり大きな声で話せなかったのも原因だな」
ここが、元マイルズさんちで有名なのもあるだろうけど、ギルド職員が居場所が確定してる冒険者は一軒一軒まわって歩いたそうだ。
「サラが起きないのはいつもの事だし」
「冒険者としては許されないが、何をしても起きない体質の人間は居るのは確かだからな」
オレは何をしても全く起きなかったから置いてったんだと、マイト達の理解力が高くて許しされてもらえたが今度からはどうにかして起きよう。
「ごめんね。今度から頑張って起きるようにするよ!」
「そう気張る事はないぞ、無理な物は無理だろうから」
逆に、アランに諭されましたが!?
でも、私を置いていったおかげで主婦達の持ってる情報がはいったからいいそうだ。
オバチャンらの情報にそれらがなかったのは、情報が遅れてるとかじゃなくてパニックを防ぐために上が情報規制をしていたからだそうだ。
もう規制はされてないから、帰宅した旦那さんらに話しを聞いたりするんだろうけど大丈夫だろうか?
「サラの護身用にクナイも箱で買ってきてある。どうせ斬り合いは出来ないから先端部分しか研いでないが、ドワコさんの仕事場を借りて私が研いできたから先端部分の切れ味だけ保証する」
アランから軽いウエストポーチを渡された。
魔法袋と同じ作りになっていると言うが、箱買いだとか無茶しすぎではありませんか?
持ちの資産から出したとか貴族の経済力が高すぎてコワい。
「ドワコさんも納品が早まったらしくて、手が追いつかないらしかったけど流石にアランには手伝わせなかったねえ」
「下手な人間が使うと砥石に癖が付いてしまうからな、あの場で私が砥石と仕上げの道具を使わせてもらえたのが不思議なくらいだ」
「研ぎ始めだけは仕事のの手を止めてたけど、アランの手際に感心して自分の作業に戻ってったから、アランを一角の職人として認めたんだろね」
幼い頃から、鍛冶の基本を職人に叩き込まれてきたとか凄いです。
アランは鍛冶職人の技能があって、ライズも魔石職人ときた。
マイトと私以外は冒険者を辞めても手に職を持てる。
「マイトも何か隠れた技能あったりするのかな?」
「いや、村にいた元冒険者に剣はならってたけど、農家しかいなかったから、後は畑イジリくらいしか…」
―こやつ出来る。
▼
「いいか野郎共!この街に向かって魔物の群が来るてのは聞いてるな?騎士団の本体もまだこっちに向かってる最中で、サンデックの正規軍だけじゃ街の防衛戦をやるにも手が足りねぇってんだ!俺たちゃ冒険者だ戦争なんかやりたかねえが、今から来る相手の正体が魔物だってんなら俺たち冒険者がやらなきゃ話しにならねと思わねーか!?」
《おうっ!》
城壁の物見台からベテラン冒険者が集まった冒険者達を鼓舞するために声をあげる。
「いいか、乱戦になる前にギルド長がでかい魔法をかまして魔物連中の出鼻を挫く!遠距離魔法が使える奴はギルド長と一緒に草原に出てきた魔物に一発喰らわせてやれ!
他の冒険者はいつもの通りにパーティーで行動しろっ!どうせ戦争の連携なんか俺たち冒険者にはロクに出来ねえ。
軍隊や騎士様たちに前線は任せて間を抜けてきた魔物は俺たちで始末すりゃいい。
城門だけは破られんじゃねぇぞ!見たこともないお宝(魔物)からサンデックの街を守るの軍隊や騎士団じゃねぇ、俺たち冒険者の役目だって絶対忘れんなよ!わかったら行け!出陣だー!」
《おおおおおおおっ!》
いささか乱暴な言葉に合わせ全員が声をはり上げた。
今夜中には到達するであろう魔物を迎え撃つために冒険者達が城門の外へ歩いていく。
遠巻きにしていた住民達の中から“頑張れ”とか“負けんなよ”との声が掛けられていく。
「それじゃ僕らも行くよ、サラは壁に上がったら適当に待機してていからね」
「そうだな。弓兵にまかせとけ」
「クナイにテグス付けとけば回収できるから渡しとくよ」
「りょ!」
軽すぎるかも知れないが、マイト達は大事な時には敢えてこうすると事前に話をしていた。
軽い訳ではない。
平常運転で行く方が上手く生き残れるんだそうだ。
誤字、説明不足によるイミフな部分の指摘あると嬉しいです。




