暴虐の盾
男達が必死の形相で後ろから迫る群衆に懇願していた。
「やめっ!つぶれ…」
「押すな!これ以上押さないでくれぇぇっ!!」
「ぐべぇぇっ!?おがあぢぁぃぁぁっ!?」
領主の兵隊と騎士団が群衆の行く手を塞ぐように街の大通りに展開し、裏道に繋がる通路などは早々にバリケードが積み上げられていた。
どうやら、大通りや通路に面する建物には通路を塞ぐための鉄柵や門が取り付けられていたようだ。
私は、そういった宅地へ繋がる通路門の後ろでしばらく騒ぎを聞いていたのだが、騒ぎが膠着してきたので、来た道を引き返した所、叫びながら通路門に体当たりをする者がそこかしこに出始めた。
「あっちはダメだ!」
「こっちだ!誰もいないぞ!手伝ってくれ!」
私がいた所も例外ではなく、裏側から堅いものを勢いよく殴りつけるような音や、成人男性程度重さのある柔らかい物がぶつかってくる音がし始めた。
彼らが何処に行くつもりなのかは彼ら自身が理解してないようで解らなかったが、こうした状況に置ける、集団意識とは恐ろしいもので、多くの人間の協力により、門の片側が蝶番ごと地面に横倒しにされるまで数分とかからなかった。
「やったぞ!壊れたぞ」
「そうだ、俺達を閉じ込められると思ったら大間違いだ」
「開い…っ」
後ろの群衆が門の破壊に盛り上がる中、先頭にいた若い男が、壊れた門の先に私が居るのを見て息を飲むのがわかった。
「オイッ!騎士団がっ」
「構うなっ!一人だけで何が出来る!みんなこっちだっ!」
私自身は塞ぐつもりでもなかったのだが、人がすれ違うがやっとの広さの通路はフルメイルの私が一人いただけだったからか、人数で押し潰すつもりらしい。大声で煽る男は勢いのまま押し潰されりであろう私を想像したのか、口元に嫌らしい笑みをに浮かべ何も知らない人間を次から次と送り出し、送り出された側はまわりの勢いに飲まれ迫ってくる。
「怪我したくなかったらそこをどけぇっ!」
どうやら、門を殴りつけていた木材を手に持ったままだったらしく先頭で走ってきた男が木材で殴りかかってきた。
私は、武器は背負ったまま鉄扉のような厚みと広さの盾を構え迎え撃つ。
がつん!と素人らしからぬ重い一撃を盾に感じたが、私より殴りかかってきた男は自らの手を傷めたのか手首を抑えヨロヨロと足を止めた
「…あぎっぎゃああああっ!」
「あごっぎぶぅぅ」
そして、後ろから来た男達に無遠慮に背中を押されバランスを崩した男は顔面から壁に激突し、押した者と同じように盾と群衆に押し潰されて悲鳴を上げだした。
血塗れになった男も押した者も、血走った目で泡を吹いている。
「たすけてっ」
「潰されるぅぅっ」
聞くに耐えない罵詈雑言と助けを懇願する者達でだが、私の起点により見事に通路は塞がれた。
下手したら圧死するだろう状況だ。
既に何人かしていてもおかしくないくらい圧力が盾を隔て伝わってくる。私のような者でななければ群衆に踏み潰されていたかもしれないと思い直し、盾を持つ手を緩める事は思い止めた。
だが、それはまるで地獄絵図のようで、驚愕したまま門から動かないあの男に対し今ある怒りの全てをぶつけてやりたい気分だった。
鉄仮面のバイザーを押し上げ、私は誰何なくただ声を張り上げ問いかける。
「キサマ等は一体―」
―何のために此処にきた。
私は目だたぬよう偵察に来ただけだと言うのに、何故こんな路上の地獄絵図を生み出さなければならないのだっ!!




