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暴動

夜らしい派手な色の服の女給が、店内を忙しく歩きいている。

(全然にあってねぇな)


ケバケバしい化粧に、通り過ぎた後の香水の匂いに顔をしかめる。

限界まで開いた豊満な胸を惜しげもなくさらし、客に色目を使う姿から、彼女が客を取る事にも慣れている事を伺わせる。


まわりの男達も、今日はどうかと明日はどうかと女に声をかけながら、女給の胸元に鼻息を荒くしていた。


(大した顔じゃねぇのによくやるぜ)


女給の色香と呼ぶには物足りないわざとらしい動作に興奮する連中の中には“オレの女だ”なんて主張してる奴もいた。


まだ若いとは言え、彼は鉄装備で身を固められる程度には冒険者をしている。これまでに女を買った事は数え切れないが、いかにもやれそうな女が居たからといって、飯の最中にナニを立てて妄想に耽るような精神は持ち合わせてなかった。


焦げ目の多い肉の塊にかぶりつき、味の薄いポタージュで口の中に残る焦げを洗い流す。


極端に不味い訳では無いが、美味いとは言い難い夕飯を胃の中へ流し込むんでいく。


そんな中、香水の匂いを振りまきながら女給が通り過ぎていくのだから顔をしかめるのも仕方がないと思う。


(…あの娘の名前なんて言ったかな)


ベテラン冒険者に連れられて一度だけ行ったあの店。




薄暗く、まるで酒場のような雰囲気の食堂だった。


一杯奢ってやると連れてこられたのに、食堂に置けるのは水代わりの軽い酒だけで、大の男が飲むには甘すぎるリキュールやアルコールの薄いカクテルばかり。


なぜ行き着けの店にしたのかがわからなかったが、飯は美味かった。


トロットろの煮込みとローストされた肉。そして、なぜかメニューにずらりとならんだ保存食。


一般客と冒険者が混在し、ベテランと呼ばれる冒険者が、酒とも呼べぬそれを手に一般客と陽気に騒ぎ、その間を独特の雰囲気の女給が、わき目もふらずすり抜けていく。


今考えると異様な店だった。


年端も行かない娘が、オッサンの手をかいくぐり料理を運ぶ姿は見事だと思い、同時にオッサン達がどこを触ろうとしていたのかわからないが、自分が手を出すには若過ぎると思った。


いや、オッサン達は頭を触ろうとしていたのか?


よくわらかないが、とにかく飯がマズいのは最悪だ。


もうこの店で宿を取るのは二度とにしない。


正直手が止まった。


『暴動だー!!冒険者ギルドで暴動が起きたぞー!!』


「暴動だとっ?!そこの人片付けを頼むっ!」


食べかけの料理から荒々しく遠ざかり配膳をしている女とは違う給仕を呼びつけ街へ走り出す。


彼は、身に着けた装備の音が鳴るのも構わず、ギルドではなくうろ覚えの店を探し走り出した。


「…酒場だとっ!!」


たどり着いついた彼は驚愕しながら店へ足を踏み入れようとしてやめた。


カウンターには、仲むつまじく指を絡め合う偉丈夫達の姿があった。


『マスタも、随分ゴツくなったもんだな』

『毎日水触ってりゃこうなるさ』


『ははっ、剣ダコじゃなかったのかよ』


『まあな、炎と熱に汗水たらしてっし、料理人は清潔でなきゃならねーからサラが来てからは剣はさっぱりだぜ』


『そーかい、サラちゃん雇った時は“こりゃやべえ”と叫びたくなったもんだがな』


『おいおい、俺は別に鍛えてねぇわけじゃねえぜ』


男がコック服を脱ぐと、ミチミチと音がしそうな筋肉が露わになる。


『はっ、観ろよ上腕二頭筋のこのカット、そこらの冒険者なら拳一発で十分よ』


冒険者は内包する魔力の絶対量が高いほど強いが、耐久力も魔力に変換される関係でケガをし難いが、普通人の肉体労働者のように筋肉を鍛え野太く逞しい体になる事は難しく、見た目で威圧できるほど筋骨隆々とした冒険者は少ない。


『ふん、その筋肉は聞き飽きたって言ったはずだぜ?』


セリフじゃないのかアンタと若い冒険者は突っ込みたくなった。


『へっ、冒険者は鍛えるとアビリティに反映するから、見た目だけでも大したしたもんだぜ?』


食堂からの酒場に名前を変えていた店は、男達が筋肉談義に花を咲かせていた。


はっきり言って、酒場の中にめちゃくちゃ入りづらい空気が流れている。


本当に暴動が起きたようで、遠く人のもみ合う声が聞こえた。筋肉談義より、まだマシだと思い冒険者は来た道を引き返していった。



基本的にこの世界は、洗濯板でごっしゅごっしゅと洗濯する。手洗いが優しいなど誰がいったか知らないが、服が痛まないように汚れる前に洗うから手洗いが優しいと感じるのだろうか。

「ぷふ~っ」

胸元まで風呂に浸かりながら、桶に手を突っ込んで洗濯をしているのだ。


「ライズさん、お湯が少なくなってきました!」


『意外に人使い荒いよね!?』


階段側に新たに設置された管からジョヴォジョヴォとお湯が流れてくる。


「ありがとー」


『どういたしましてー』


そう、階段脇の空間にボイラー室と言う立派な名前がついたのさ。


水を出す湯を沸かすの行程なしで、お湯追加とか便利すぎる。

それにしても、男の時より身なりに気を使わなきゃならないから大変だよ。


筒がないから、下着の汚れかたも違うし、男の時より体臭が増えたみたいで、寝て起きると換気したくなる。


自分の匂いとは言え女の匂いになれてないんだわ。


洗い終わった洗濯物は絞って籠に入れておいて、風呂から上がったら部屋干しするのだよ。


部屋干しは臭うときあるけど、そこはほらライズの魔法があるじゃないか、私の魔力量は高くないから、専門家のライズに頼って損なし。

川沿いには、本職の洗濯屋さんなんかもいるけど、毎回は頼めないからね。


そうして、肩まで浸かり一息。


『サラー、そろそろ風呂上がってー』


壁の管からマイトの声。

いままで、お風呂で急かされた事ないんだけどどうしたのだろう。


「りょー」


作業も終わっているから大人しく風呂を上がる。


髪?最初に流したから、最後にお湯かぶって汗だけ流してから上がります。



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