表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/50

▼暴動と盾

「お前は、ウグイって名前なんだねぇ」


針から外した細長い魚を、もちあげてしみじみと眺める。


「川にいる細長い魚はみんなハヤって名前だと思ってたよ」


ウナギなんか覗いて、川にいるのはほとんどコイの種類で、大した違いはないらしいけど、縦に縞がある奴とか背中が黄色くてエラから尾の穂まで筋が付いたハヤはそれぞれキチンとした名前がついて売られてるらしい。


「今まで、素焼きくらいしかしてきてやらなくてごめん。今度からはちゃんと“ウグイの香草焼き”とか“ウグイ包み焼き”とかキチンとした料理らしい料理にしてやるからな」


ピチピチと暴れるウグイを手掴みで桶まで運ぶ。

桶の中は、ライズが魔法で生み出した雪でキンキンに冷やされていて、まんま雪とそれが溶けた水の冷たさに冬眠だか仮死状態になるんだそうだ。


ウグイの体を雪にブスッと差しておくと、だんだん動かなくなっていくウグイ。


「戦友を看取る時の気持ちってこんな感じなんですかね?」


「いや、サラのそれは無邪気な子供の残酷さと言う奴だ。生き物が弱る姿に快感を覚えたら終わりだ」


なるほど、そう言うものか。



なんやかんやで、結局夕方近くまで釣りに没頭してたんだけど、売り物になるような魚はつれなくて、稚魚みたいな小物ばかりて、魚屋さんから怒られそうだから自分たちの夕食用にする事にしました。



その日の帰り道、若い男が叫びながら街を走っていった。


「暴動だ!冒険者ギルドで暴動が起きてるぞっ!」


市民が着てそうなチュニックから覗くのは、太く鍛えられた二の腕。


―ひょっとして煽ってますか?


「まぁ、一週間以上依頼がなければ一部が暴動くらい起こすかもしれんな」


「いや、どうせ新規登録した奴らばかりでやってんでしょ」


「かも知れん。あっちは倉庫街だしな」


アランとライズが、男が走り去った方向を見ながら冷静に話をしている。


「サラ、巻き込まれないように家に帰るよ」


「そうだな、マイトがまた気絶するしな」


「そうそう、依頼が無くて暴動を起こす奴はろくな人間じゃないし、サラも関りたくないでしょ?」


三人とも関わりたくないみたいで、大通りを足早に歩き始める。


勿論私も関わりたくないので満場一致で可決。


でも、人通りは普通にあるし、暴動の気配なんかないんだけど?


「だから、暴動は今から倉庫街で起こるんだよ」


「ふぁ!?なにそれ?」


「それから、冒険者ギルドで騒いだ身の程知らずの連中は、ギルドの人間にすぐ捕まっただろうしな」


ギルマスの絶対条件がAランクである事だったか。

Aランクの冒険者しかギルマスになれない理由は即戦力と抑止力になれる事。

いくら好々爺してても、Aランクはだてじゃないのだと。


「Bまでは人間でもなれるが、Aはもはや人外の代名詞だからな」


「アラン達が目指すはBって言ってたのはそんな理由ですか」


「いや、理由は他にもあるんだが、信頼があれば一気にBランクになれる事もあるらしいからな」


竜殺しはもちろんの事だが、フェンリルや三首の犬みたいな幻獣殺しとかもBランクの要素だとかかんとか。


メッタにお目にかかれないが、その強さにより、幻獣やドラゴンは災害認定されている。


そんな化け物を倒せたら、確かにBランクに上げてくれるだろうさ。


「アラン達の強いの基準がいまいち解らないわ」


「とりあえず、“倒せればOK”と覚えて置けば間違いないぞ」


「その通り、倒せればOKだ」

「倒せそうもなかったら、仲間を置いてでも逃げるのがセオリーなんだけど、“とりあえず倒せると思うしかない”んだよ?」


ライズが私の肩に手を置いて陽気に笑うが、目が笑ってないです。


仲間を見捨てて逃げたらあかんのかね?


「この三人なら、そうそう負ける事はないから安心しろ」


アランが、自信あり気に宣うが、その自信はどこからくるのだろう。


「盾の師の口癖は“まず己を信じる事”だった、その実践だな」


ただ自信あるだけではなく、自信がある自分を信じるから、十全の力を出せると言うけど、それでいいのだろうか?「意外となんとかなるもんだぞ」


その理論は、一部の天才にしか通用しない。けど、信じなきゃ始まらないのは確かだ。


それにしても、街で暴動を起こされた日には助けた意味があるのか疑いたくなるよ。

受け入れた難民が暴動を起こすケースは少なくないから、普通は街の近くに難民キャンプを置かないらしいんだけどね。


「目的にもよるだろうが、残された難民の扱いが悪くなるのは確かだろうな」


腹一杯にはならない配給に対する不満や、いつまでも自分たちの国を街を取り返しに行かない同盟国の人間達に対する糾弾。難民にならないと解らない様々な要素。


一念発起して外国で冒険者になったのに、いつまでも依頼が受けられないというギルドへの不満。


それらを“難民だから仕方がない”と、割り切れるだけの人間は居ないそうだ。


「お腹空かせてるのは可哀想だけど、それで暴動起こすのは違うよね?」


「難民になった享受する側は、与えられて当たり前と思いがちだから、本来は食料は買うもので自分たちでどうにかしなくちゃならない事を忘れてしまうんだよ」


戦争だから、難民だから除外されるべきではないと、アランが言うけどそれはそれで厳し過ぎないかな。


「厳しくはない。アーリーウッドのダンジョンが原因で、この街の経済が干上がりかねんのだから、この国の貴族の考え方としては普通の方向だ」



難民が、国内に入ってきていなければ、ギルドが依頼に対して規制をかけたりはしないし、通常通りの暮らしをしていただろうから外国難民に対してそこまで気を使うのは国民に対して理不尽だと言う。

それに、もともと倉庫街に近い地域では、治安の悪化を理由に難民を街から追い出して欲しいと要望が多いらしいから近い将来確実に追い出されるらしい。

そんなだから、ギルドは戦力の冒険者を街から出さないようにしていて、街に地元の冒険者がいれば、それだけでも難民の行動を抑えられ治安維持に繋がるのだと言う。


あれだ、拘束期間中の保障って奴があるから、ベテラン組みたいな以前からギルドに登録してる人は、率先して治安維持に出向いてるらしい。


ハッキリ言わせて貰おうか。

…全然知らなかった。

ウチは新参者だし、街の中もまだ知らないことばかりだから治安維持から当然の如く除外されたらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ