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【一】間氷期の兆し

捻れていたらしき角は半ばで折れていたが、奥から現れたそれは自らの血で赤く染まった生まれたままの姿の魔族だった。


「すげー、デッカいおっぱいだ!!


「お嬢ちゃん何言ってくれてんのっ!?」


いや、魔族云々じゃなくて女体素っ裸でナマチチは初体験なんだもんです。


「…てかやべーぞ」


胴体の真ん中と両手、左脹ら脛まで失っているにもかかわらず、女魔族が死にかけている者とは思えない穏やかな笑みを浮かべている。


オレを守るように間に入っていた兵士たちが後ずさってきた。

「ボサノヴァがやられたのかよ」


「くそ、誰でもいいからギルマス呼んでこい!」


え、この流れってマイルズさんやられちゃった系?


「いや!アレはもう致命傷手だろっ!?盾を前に通路を塞げ!」


隊長らしき人がポッカリと開いた腹部を指差し叫び、兵士たちが扉のような盾を構え通路を塞いだ。



-トン


…のだが、魔族はそれを飛び越えオレの前に軽い音をたて着地した。


それに気付いた時、オレは迷わず全力で後ろに跳躍しながら、ナイフを投げつけた。


いや、逃げ切りの曲芸投げとか得意なもんで。


普段から木の枝を足場にしている経緯なんかは後にするとして、壁の雨樋蹴りつけ着地すると、眉間にナイフがささった女魔族は白目をむいてことぎれていた。


そういや魔族って、人間みたいな肉体的な即死がないんだった。


体力0になるまで動けるんだっけ、ナイフ一発で行くレベルとかないわ。


「やっちゃっイギャうっ!?」



倒してはいけない魔族を倒した直後、魔族から紫色の玉が飛び出してオレの胸板と股間をすり抜けた。


胸が爆発したかのような痛みが走りそぎ取られたかのような股間の痛みの凄まじさに堪えきれる訳もなく、オレは気絶したようだった。




翌日、ギルドで目を覚ましたオレはあった事もなかったギルド長に会わされることとなった。


部屋の中には、いつかの俯いていた少年と仲間らしき二人がいた。

マイルズさんがどのような状態かはわからないが、グループ仲間と共に引退を決意したらしい。


マスターの無二の親友だと話しなので引退後はマスターと共に食堂をやるそうだ。


オレの就職先が消えた。


ついでに股間の息子も消えて、なぜか立派な胸が生えていた。

そう気絶して目を覚ましたら、オレの体は女性になっていた。

まあ、女装じゃない美少女が居たわけだ。


サラと言う女性は存在しないと言う訳で、保護された身元不明の女の取り調べが行われる事になったのだそうだ。


つまりオレ。


「じゃあ、冒険者登録に間違いはないんだな?」


「はい、昨日までは間違いなく男でした」

腰を悪くして引退したという、元Aランク冒険者の老人の言葉に肯定すると、同室していた連中が目を見開いて驚いていた。


「…ばかな?!マイト、お前シチューくれたの彼女だって話しをしていただろう!?」


「いや?!だってそうとしか見えなかったんだから!!」


「うわ、BL乙クププ~ごふぉ」


互いに肘で脇やらを小突きながら会話をしている。

最初のが怪我で倒れた盾使いさん、マイトと呼ばれたのが俯いてた少年で、最後が仲間の魔法使いらしい。


ついでに紹介した順に背が低くなるが魔法使いさんはオレより大きいようだ。


後で聞いたら、みんな王都近郊の出身らしくトリオで活動してるという。


都会に生まれて友達もいてとはうらやましい妬ましい。


オレなんかジジババと年上年下ばっかの過疎村の追い出された四男だから故郷もくそもないんだぞ?


上か下かの開きがデカくて村に同年代が居なかったんだよ。


「森の中を木の枝伝いに高速移動する毛玉がいると噂には聞いとったが、その毛玉がこんな顔しとったとは思わなかったの…。まだ冒険者をやる気はあるのか?」



「冒険者はともかく、身分証が欲しいからやります」


街の中に居る限り必要性はない身分証だが、パスポートみたいな感じで、ソレないと街からも出られない。

市民として手続きをするより冒険者の方が簡単に身分証が手に入る。

魔力がないと冒険者になれない事まで含めるとちょっとした特権階級みたいなもんだね。


けど、ソロだと手紙の配達とかみたいな雑用しかないから下っ端もいいところだね。


でも、薬草採集でも冒険者として月一でもギルドに活動記録ががあれば、近隣の門や橋の通行税はタダになる。


虚しかろうが何かしらやるしかない。


「そうか、こちらで基本的な手続きはしておくが、呪われた事にたいしては此方から補償はせんぞ?」


まがりなりにも冒険者が呪われたのは自己責任との話しなので、ギルマスから咎められるとかがないようで助かった。


年を取って優しそうに見える爺様だけど、こうゆう年寄りほど怒りの沸点がわからなくて怖いよ。

「その顔だし、命に関わるものでもなかったみたいだから、マダましだと思っておきなさい」


「それもそうなんですけど…」


言われながらフッカフカした胸部をワッシャワッシャと揉みしだいてみる。


何というか“自分で触ってる”感じがするだけなのだが、わりと柔らかいもんなんでびっくりしました。


服の中身は何度か確認しているが揉みしだいたのは初めてだった。


「…やめんかみっともない。と言うわけじゃ、本人が納得してるなら構わんだろ」


ギルド長が顔を赤らめガン見してた三人に声をかけるとサッと顔を背けた。



「それから、サラン君は森に入るにはパーティー組んで行動しなきゃ罰金になるから注意せいよ?」


「あんま知り合いもいないんですけど…」


苗床にはされたくないから頷いたけど、たしか女冒険者って規制多かったはずだ。


まあ、冒険者カードもらう時に教えて貰えるだろうから今はいいや。


それよか、なんでこの若い三人がいたかってーと、呪われた冒険者に何らかの形で責任をとるつもりでいたそうだ。


「オレも冒険者のプライドくらいあるつもりなんですが?」


「普通は不甲斐ない連中に文句の一つも言うもんだろう?」


「いいませんよめんどくさい」


ソロで活動してる奴は死ななきゃいいやくらいの感じで森に入る。

んだから、彼らのその責任を取りたいと言う珍妙な行動はあまり嬉しい物ではない。


「女冒険者が男にされたならまだしも、オレはあんま変わんないですから尚更らですね」


「「「「明らかに変わってんだろ」」」」



室内にいた全員が胸を指差したが、これはこれで?


「…呪いが其れだけなら問題ないだろううが、解析が終わるまでは独房で監視する事になるがいいかの?」


呪いの効果が正確にわからない限りギルドの管理下に置かれるらしい。


どの道倉庫街は封鎖されてるらしいからかえれないから都合がいい。


…店で働けたとしてもマイルズさんやらに女装がバレたとなるからバイトも風当たり強くなったりとか?

どうせ呪いの内容は公開されんから、はじめから女だったとでも話せばいいのか?


よしそれで通そう。


ギルドから情報が漏れる事はないらしいから迫害される心配はないらしい。


「それから、呪いの影響がどうでるかわからんから当分ギルドですごしてもらう。出掛けるときはこいつらが監視につくからな?」


監視下に置かれるのはしかたないが、パーティー一つまるまる監視にするのは、やりすぎだと思うな。




それから独房で三日間過ごす。


いや、なんつーか倉庫街も結構壊れたらしくて出入りできないからある意味ラッキーだった。それに、女の人の常識とかないから、ギルドの事務の50歳くらいの女の人ミーアさんに、これから必要になりそうな事を教えて貰ったりしてるから無為にしてる訳じゃないんだよ。


まだ、医者に見せた訳じゃないし見せたくもないけど、女にはなっているみたいだから、あるかどうかわからない事までならってんだけど、たった三日なのに、耳年増になりそうなくらい聞かせてくれるのは女の人だからなのかオバチャンだからなのか…。


その間に、三人が交代で様子を見に来たりするんだが、食堂で俯いてた少年、短い黒髪に黒瞳をして農村出身のマイトはオレの半裸に二度も邂逅すると言う快挙をなした。


一回はオバチャンに服の着方やら習ってる時でっ、二度めは体拭いてる時だったな。


女歴三日の此方としては、“まだ”そんなに騒ぐような話しではないと思う。

それに、いきなり“きゃー”とか叫んだら負けな気がする。


ミーアさんも、流石にそれはおかしいとかなんとか言ってたんだから大丈夫。


まだ、体が変化しただけで切羽詰まっちゃいない訳だ。


今のオレは立派に独房の住人だよ。


「おいっ?!少しくらい部屋から出たらどうなんだっ!?」


隔離病室もとい独房から出てこないオレに業を煮やしたのか、三人組の中の怪我した人が乗り込んできた。


名前は、アラン=スミスと鍛治屋関係を生業に成り上がった貴族の三男らしい。


もう一人のは赤い髪でオレと背がおんなじくらいで、 ライズだっ たかな、呪いの効果がきになるのかよく質問してくる。

監視付きなら出掛けられるのはわかってるけど、今んとこ出掛ける必要が全くないから困るのね。


「でも、出掛けるにしても出掛ける先がないんですっ?!」


倉庫の中にあった荷物は運んで貰ったし、ミーアさんの娘さんのおさがりの服とか戴いてしまったから服も買い物いかなくていい。


身元確認でマスター呼び出され、その時にギルド側と交渉してくれた。元々拘束期間中は冒険者の日当の半額を受け取れる事になってるとかなんとか話してくれたから当分安泰だし?



冒険者になりたかったマスターは、誰より冒険者ギルドの規則に詳しい人だった。

それにさ、英雄ではないけど最終的に魔族を倒したんだから、半額でも割に合わんだろとマスターは笑いながら話してくれた。

独房から出るときに少なくないお金が貰えるから、監視役が楽になるよう気を使ってるつもりだったんだけどな?


「お前は、それでも冒険者か!?」


「酷い言いがかりだっ!監視されてんのになんで無駄に冒険せにゃならんのですか!?」


そもそも、期間中は依頼受注扱いになるから他の依頼も受けれないんだから当然の対応だと思う。

呪われたんだから下手なくても隔離されてもおかしくないし、万が一他にも呪いが隠れてたりしたら処分とかもありえるって脅されたんだぞ?!


分刻みで様子を伺われつるのに、ノコノコ出掛けるやつがいたらみてみたいわ。


「クッ、地下室からも出てこないんじゃ、監視役としての責任が!引き受けた意味もなんにもないじゃないか!!」


憤慨したらしきアランさんが、怒鳴りながら歩いて行ったけど、監視とこれからの為のお勉強と、お互いにやるべき事してんだからいいじゃないのかね?



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