理解の壁
「奴隷落ちとかしたくないからバイトしてたんだから、わざわざ言わなくていいよ」
マジ、初心者のウチに装備に金掛け過ぎて借金まみれになるパターン多いんだから変な話に持ってくのやめて。
「農村から出てきて諦められるパターンは少ないんだよ。下手したらパーティー丸ごと奴隷落ちとか割と聞くんだから洒落にならないよ。サランは先にバイト見つけてなんとか凌いでたって言うけど普通は冒険者ってだけで街の人から敬遠されるもん」
オレの場合、冒険者っポイと事してる時は毛皮で姿隠した上に冒険者だなんて周りに話さなかったし、朝から女装してサラって名乗ってたからじゃないかな。
冒険者として行き詰まっても生きてられたのはマスターに会ってたからなんだよな。
「オレは元々色白で小柄だったし、生きてけるならなんでもよかったし」
絶対に冒険者になりたかった訳ではなくて街の出入りに必要な身分証と、その日のご飯が食べたくて冒険者になったんだから、有名になたくて村から出て来た人と比べられても困るよ。
でも、農村から出てくる若者は大体が、村から捨てられたか、家を飛び出してきたかのどちらかになるから、帰るとき家もなくて空腹に耐えかねて自ら奴隷落ちする人も居ないわけじゃないんだ。
買ったばかりの装備を着て歩けば、チンピラとかに路地裏に引きずりこまれて身ぐるみ剥がされたりする事もままある世の中で、治安の良い路地裏でマスターに会ったオレは、ホントに運がよかった。
「それが出来る人はなかなかいないよ?」
「出来ても良いことじゃないからやらないのはオレにもわかるよ」
「もしも、僕ら以外の冒険者と組むなんて事になったら相手の目をしっかり見てからにしてね」
「ああ、後ろめたい人間は目が泳ぐとか言う奴?」
「いや、近いけどちょっと違うんだ」
「なにが?」
「仲間にしたい、仲間になりたいと思ってない冒険者は絶対にサランから目を逸らさない」
「いや、それは…」
「そうゆう相手は、何人も騙して来てるからサランをサランとして見てない」
ああ、なんとなく言いたいこと分かってきたけど、知り合った冒険者をモノとして扱うなんてこんな田舎でそんな事あるかな。
「今はないかも知れないけど、この状況が続けば王都から流れてくる冒険者が出て来るはずだし、編綴のない普通の冒険者が田舎者相手だと悪気なくやるくらいにあるんだよ」
ここで、マイト達もそうか?と聞いたら絶対激オコだよね。
とりあえず、マイト達は危険じゃなさそうなんだけどね。
マイト達と別れたら冒険者止めてどっかに就職するかな。
「けどさ、田舎でもいないとは限らない訳だしそんなに息巻いて言わなくても…」
「…だから、確実にいるから言ってるの」
騙された人かマイト
「アレのせいで、僕も酷い目にあったしアランとライズに会うまでは冒険者として終わってたんだ。サランだと見た目も冒険者らしくない仕草とか他人ごとじゃないんだよ」
素人丸出しですいませんねー。赤の他人に迷惑かけなかったのが唯一の誇りですー。
てか、元々そんな誇りがないから女装できたんですー。
バイトしなかったら今頃服すらないか、返り血と自分の血で染まった紫みたいな茶色みたいなきったない服で路地裏転がってたよ。
「…急いでバイト探さないとかな」
「いや、バイトじゃなくてパーティー単位になれば、冒険者同士でも規制かかるんだから、僕らと一緒に冒険者やろうよっていいたいの」
確か、固定パーティーになると、一定期間は別グループからの引き抜きなんかはギルドを介入しないと無効になるんだったかな。
格上が格下の冒険者グループにいる可愛い女冒険者が欲しくて無理やり闇討ちや決闘とかで女冒険者を奪い取ろうとするのがしょっちゅうあって、それをギルドの規律で防止するために作られたのがギルドの登録証だったか。
ただね。中には腐ってる組織もあるらしいからギルドを信用するか否かでもあるよね?
「固定パーティー?」
「そう。少なくとも僕ら三人はサランと組みたいと思ってるから、今みたいなクエストパーティーじゃなくて、僕らと四人で固定パーティーの登録しない?」
ほほう、それは年上の余裕かイケメン故の優越感からくるものか?
「そうか、ならオレの目を見て言える?」
だって、さっきから机の角っこ見て話してるだけでチラリともこっち見ないんだぞ?
相手の目を見て話せとか言っときながら、マイトの信用性は皆無じゃないか。
「サランと見つめ合…うっ!?」
チラリと向けたマイトの視線とガン見していたオレの視線が瞬間的に外されマイトが叫ぶ。
「こっ、れは、ゴメン無理だ」
―無理だそうです。
「二人が居るときならなんとか…」
身の危険を感じるから、頬を染めてモジモジしながら言わないで下さい。
年下が好きとか話してたけど、まさかマイトってオネェの気があったりするなのかな…。
まさか買い物にいった二人は、これからマイトを参考にしろとでもいいたかったのか?
それからしばらく微妙な空気の漂うリビングで無言のまま二人で座っていた。
「ただいま~」
「戻ったぞ」
マイトは声に顔を上げ嬉しそうに出迎えた。
「おかえり!遅かったからどうしようかと思ってたんだっ!!」
花が咲くとでも言うのだろうか、ほんっっっっとーーに嬉しそうに二人を出迎えていた。
ダメだ。これ、この人は完璧にそっち系の人かも知れない。
「オカエリなさい」
遅ればせながら二人に声をかけたがどうにも声音が安定してない。
「うはは、サランとの溝が開い気がするねー」
「マイトに任せたのは失敗だったな」
「いや、失敗って訳じゃ」
テーブルの上にズタ袋を置きながら話す二人にマイトが言い訳をしたりしているお陰で室内の雰囲気がガラリと変わった。
次からは、マイトと二人になるよりも、早々に部屋に引きあげて静かに過ごそう。
静寂は辛い。
「さて、マイトが失敗したとしても話を決めてしまおうか」
話を決めてしまうんですか、進めるでは満足しませんかお兄さんは。
「マイトから聞いたと思うが、固定パーティー組まないか?」
「サランなら変な事にならないしパーティーの空きを埋めるくらいの感じでいいからさー」
ああ、マイトの時みたいに目がどうたらこうたらではなく、二人とも作業のついでに話してるだけで、目なんか全く会わないから、マイトのアドバイス役にたたないけど、割と二人とも前向きに検討されてる前提で話かけてきているようだ。
王都で色々あったって話なのに、そんなにオレを信用していいのかな。
「蜂蜜と砂糖と…なんだ?腐った汁が入ってるのか?」
「あ、それ入浴前に風呂に一二滴たらすと保湿剤になるんだたていうから買ってきてみた」
「ヨーグルトみたいな臭いだな」
「たしか、ヨーグルトの上澄みの乳精とかだったと思うよ」
「身嗜みに気を使えと行ったのは私だが、ライズも気になるのか?」
「いや、サラン用」
「りょ」
そんな話をしながら二人がテーブルに草木を山と並べていく。
てか、ズタ袋=魔法袋なんだけど、なんか色んなものがでてくるわ。
「あっ、これお土産ね」
そうして、ライズに渡されたのはブロック肉がついた串。
魔法袋から出したばかりだから肉汁が手元に垂れてくる。
「ありがとう。いただきます」
「どーぞー」
かじり付くと肉汁が溢れ、ペタペタとズボンに遠慮なくシミを作る。
「はふはふ、ライズ固定パーティーお願いします」
「いきなりどうし…ああうん、わかったよ何となく」
この気遣いのなさ気に入った。
女の子相手の土産に肉汁たっぷりの串焼きは無いよ。
口紅はげたり、服が汚れるからクリームたっぷりのクレープみたいなスィーツを女の子に渡すならまだしも、肉。
しかも、ほぼ脂身。
マイトはあれだけどライズはよき理解者になってくれそうだ。
( ̄人 ̄)心頭滅却せずとも人は好きになれる。