ライズはバカ【10/5修正】
隣国、アーリーウッドの首都はこの国の王都より近い。
アーリーウッドとサンデックを繋ぐ街道が一本あるが、サンデックからアーリーウッドに行くまでサラマンドラ側の街道に宿場町がない。
過去にサンデック開拓に関わったのがアーリーウッド出身の貴族の若者だったらしいのだが、アーリーウッドへの行き来はほぼ王都近くの港、つまり船で行われて来ているのが原因だ。
開拓時代にはアーリーウッドから物資の流通も僅かながらあったらしいのだが、アーリーウッドからよりサラマンドラ側からの出入りが増え宿場町は廃村になり住んでいた人はサンデックに移り住んだらしい。
さて、ここで難民の話に移る。
首都から逃げのびた一部をアーリーウッドの騎士団が国民の一部を国外へ避難させる事にしたのは、歩いて移動出来る方向に全員が避難出来る場所がなかったからだそうだ。
三千人規模の難民では、アーリーウッド国内の村では、収容出来ないだろうけど、外国を選んだのは、アーリーウッドから国境までにあった村は魔物に襲撃されたらしく跡形もなかったからで、反対にサンデック側はアーリーウッド国境までの間に村が一切ない。
三千人を賄える食料もなく、国境に市民を残し、一番大きな都市が国外のサンデックへ救援要請をし騎士団の一部の代表だけで此方にきたそうだ。
人道支援や保護ならまだしも、サンデックから直接兵隊を出す事はないみたいで、冒険者がギルドや自宅で待機してる状況が二日ほど続いていたのだが、なんと騎士団に遅れる事2日。
アーリーウッドの避難民の本体が、サンデックまで来てしまったらしいのだ。
通常の難民措置から鑑みて、これはかなりありえない事態らしく、難民からサンデック市民守るため冒険者ギルドの掲示板も現在は依頼が剥がされている。
町の外に行くにも規制がかかっているので、家賃を稼ぎに行けなくなっている。
借家を借りたばかりなのに一体なんの冗談だろうか。
「どの道治安が悪くなってるからサランは当分家からでない方がいいよ」
マイトは、外出すら否定的になるし、どんなもんですかね?
アーリーウッドの難民は現在街の倉庫街に移動させたられているのだが、その翌日から呆れるほど分かり易く街の中で強盗や犯罪が増えてる。
そもそも、一部の難民が騎士団の代表が居なくなってしまったのを置いてかれたと勘違いしたのが全ての始まりらしい。
それでも、彼らは置いてかれた草原で一夜を明かしたそうだが、耐えられなかったらしい。
それ以前は昼夜を問わず強行軍で二日間歩き通しで疲労も溜まり精神的余裕もなかったのも原因なんだろうけど、疑心暗鬼の中、何者かの号令に促され皆サンデックに向かって移動してしまったそうだ。
異常な精神状態の中、その途中で足を止めた者は集団から見捨てられ、現在アーリーウッドの騎士とサンデックの兵士が空の馬車を何台も率いて脱落してしまった人達を拾いに向かってると言う。
それから、単純に屋根があるのとないのとじゃエラい違いだから領主の判断で倉庫街を隔離した上で難民を受け入れたらしいね。
「アーリーウッドの連中には、自制心がないのかと住民から非難され始めてるから、その内追い出されかねない」
「ほんの一部なんだけども、かなり迷惑だね」
「とにかく、倉庫街はまだしも、もともと人の少なかった区画に抜け出してきた若者が隠れ住んでるらしく、王都のスラム街なみに治安が悪い。なめてかかるととんでもない目に会わされるぞ」
特に12才位の子供達は、後の事を考えてないから襲撃の手口が酷いらしい。
「わかったから、早くお風呂入ってきなよ…」
「今ライズが入ったばかりだぞ」
「こないだ三人で入ってたじゃん」
「あれは偶々だ
「たまたまですか」
「そう何回も入りたくはないぞ」
以上が、留守番してたらアランとライズが、ゴミだらけにされて帰ってきた経緯でした。
ちなみに、魔物系の地肉の汚れは《クリア》でどうにかなるけど、生ゴミは綺麗になってくれなないそうです。
人の少ない区画と聞いて、もっと早くに知ってたらオレも住んでたかもなんて考えたけど、城塞都市という限られた空間で人が少ないのも少なくなっただけの理由があったよ。
老朽化し倒壊の危険がある古い建物が多い区画がそれだ。
人が住まう出入りするだけでも危険がつきまとう家。そこに潜んで暮らそうしている子供達を倉庫街に戻そうと街の兵隊や冒険者は必死の捜索をしている。
早くもいくつかのグループに分かれているらしくて、ほとんどが親のいない子供達で、空き家や下水を根城にしていると話してくれた。
捕まった子供達は配給が少ないとか不満をぶつけてきたらしいけど、廃墟の中で自立して難民としての支援を受けられない生き方をするより配給があるだけましだと思うんだけどな。
「力がない若い少女や老齢の女性に被害が集中してるから、サランも外出は気をつけてくれ」
「…ああ、オレもそういや女でしたよ」
「心配ならマイト以外の誰かを呼べばついてくからな」
「マイトはダメなのか?」
「…マイトを連れてくくらいならサラン一人の方がまだ安全そうだ」
「だからなんでだよ」
「マイトだからな…」
意味分からん。とにかく、無理やり廃墟に連れ込まれそうになった人もいるらしくかなり無法な状態になっているらしいから気をつけよう。
オレが一番嫌いな弱者を狙うタイプの集団がいるらしい。
まだ国が完全に墜ちたって訳じゃないのに市民から犯罪者にあっさり身を落としてなんになるのさ。
難民として保護されてる間は、人権が保証されてるはずなんだけど国に帰るつもりがないのか?
「もともとアーリーウッドは、裏社会が幅を利かせていたから国内の黒い噂が絶えなかった国だ。既に犯罪に手を染めてきていた者が多いからその手合いが集団の頭を取ってるんだろう」
「国そのものがダメだからアーリーウッドは落とされたんじゃねぇか?」
アランがオレの発言に苦笑する。
「もともといい噂はきかない国だから否定は出来んが、国都を含めどうも人間に攻められた訳じゃなさそうなのが問題でな」
騎士団は相手の正体が不明と話してたけど、市民は魔物と断定してたんだと、騎士団と市民の話が食い違うのはなんでだろうな。
「アーリーウッドの首都や、もっと南に連絡がつけられたら解るかも知れんが…」
外部勢力に狙われてきたアーリーウッドは、軍事的な情報が入りにくい体制らしいから、今連携が取れないのも仕方がないらしいです。
「でも、アランの話聞いたらアーリーウッドって、もともとろくでもなさそうな体制だから国なんか捨てても良さそうだよね」
「それは口にしたらダメだろう」
「誰かに聞かれる訳じゃないからいいじゃない」
「その通りだが、連中がいると治安悪くなるぞ」
「知り合いもいませんし、街から追い返してくれる人いませんかね?」
「そう思うなら、サランは関わらないようにするだけにしておいた方がいいな」
「りょ」
「いい返事だ」
でもさ、このあたりも表通りではないんだよねー。
周辺に空き部屋とか空き家も在るし、家の前の道は二メートルなくて、人通りもあまりないよ。
地下につながる下水口はないけど、トイレの口がたまに小さな子供が落ちるくらいには開いてる。
子供の発想って、時にとんでもない考え方するけど、さすがにぽっとんからの出入りはないよね?
「いや、この辺りは兵士の家族とか冒険者が結構住んでるし大丈夫なんじゃないか?」
「そおかなー、でも夜は気をつけようね?」
一応閂は付けたけど木製だから削られでもしたらわかんないもの。
今は鉄製の鍵は外にしかないから気をつけないとね
「基本的に、入られる時は入られてしまうからな。金目の物はないし、一階に持ち出せる食糧があれば大丈夫だとは思うのだがな」
なぜアランは入られる前提で話をしている。
「いや、あーゆう連中は入る時は何としても入るだ。
貴族の邸宅には入りやすい部屋一つだけ用意して、小銭程度になる調度品を置いていたりするからな」
『どうせなら、上の階は結界でも張っておく?簡易式の術式でも魔石使えばしばらく保つよ』
ライズが風呂場から魔法使いっぽい事を口にした。
「結界魔法なんてあるんだ?」
『あるよ。実際には魔法じゃなくて道具を利用した“魔導”に分類されてるんだけど、野営の時にテントの周りに透明な膜で虫除けにしたり、テントそのものの強度をあげたりもできるから重宝されるんだよ』
ライズが話してる間に隠し部屋に侵入。
「へー、便利なのあるんだねー」
『イヤー!痴漢よ!?』
―失礼な。CHIJOですよ?
主に虫除け機能が気になる。夏の蚊とか夜中入られないとか素敵すぎて惚れてしまいそう。
「自宅に結界はる冒険者なんかいないだろうから、安全ではあるな」
「買うと高いけど基礎になる魔石作れさえすれば安いもんだからね。ちょっとした秘密基地みたいな感じになるよ?」
「なんでライズは作れるんだ?」
『まって、今上がるから除くの止めて!?』
「覗いてませんよ?」
『ならいいけど…』
―見ーてるだーけー。
▼
「魔法の師匠が結界石の内職してて、魔法教えてもらう代わりに手伝ってたんだよ」
あー、生活費稼げる職人さんでしたか。
「指先くらいの石に刻むから、意外に子供のほうがうまく刻めるんだよねー。そん時に先生が“師を超えたか”とか意味わかんない事ブツブツ言ってたけど、先生は今アランの妹さんの家庭教師してるよ」
「ああ、父が妹の家庭教師を探してた時に訪ねた先で年端もいかない子供が作業してたのが問題になったんだったな。サラン、児童労働の嫌疑で我が父に連行されたのがライズの師匠だ」
―その紹介おかしくないっすか?
「当時は新聞の三面記事になったくらいだからな」
あくまで一面じゃないんですね?
「元エリート魔導師“児童労働の現行犯で逮捕”なんてね」
「結局、教え子たちの体当たりの抗議があったおかげで“魔導技術の勉強の一環”と処理されて、名誉払拭を兼ねて我が家で先生を雇う事にしたんだが」
「まぁ、先生は捕まる時に“いつかこうなると思っていた”と話してたけど、作業が面白そうで内職の手伝い無理やり始めたのは俺らだったから、師匠助け出すの必死だったよ」
大笑いしながらライズが話す。それは確かにとばっちりもいいところだけど―――
「…助け出したの?」
捕らわれて牢屋に入れられてる人を子供が助け出せるもんなのか?
「いや、正面から30人位の子供が一斉に雪崩こんてきたという話ではあるが…」
「先生の国外逃亡の馬車まで用意したつもりだったけど、よくよく考えたら普通に馬車で乗り付けただとけというオチ」
ほへー、みんなバカだったんですね。
「魔法で助け出すとか考え方なかったんだ?」
普通はそっち選びそうなのにね。
「あははは、攻撃魔法って疲れるから仲間のみんなもやりたがらなかったからな」
スタンとかは技術的な難しさはあっても、精霊を媒介しないから疲弊しないんだとか、ライズの説明に耳を塞ぐ。
魔法の事になるとやたらウンチクを言いたがるのは魔法使いのサガだとマイトが語っていたね。
理論なんか知らずに魔法らしきもの使ったりしてたけどわざわざ勉強したくない。
「とりあえず設置するだけだから壁にでも仕込んどくよ」
とかいいながらライズが歩いてった。
「…テント用の魔石だかで家の結界はれちゃうんだ?」
「いや、どうせ話してる間に新しい魔石で作ったんだろう」
「身内の為なら手間を惜しまないから、スラムじゃ結構苦労したはずなんだけと…」
作ったって、作業してる風には見えなかったんだけどー?
ライズって天才なんだろうか?いや、アランとマイトも割と普通じゃないけど…。
「ライズって天才か?」
思わず聞いたオレに対し、マイトは優しく微笑みかけながらこう答えた。
「あれはバカっていうんだよ」
「ああ、間違いなくバカだな」
「…そうか、バカか」
『誰がバカだきこえてるぞー』
とりあえずアランもマイトも風呂は入れ。
―順番に壁から覗いてやるから
(´人`)気安い関係だからバカと言えるわけです