表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一話

えっ?何だって?


ワシが戦争中に、戦闘機の開発に関わっていたのが、そんなに意外なのかね?


あなたはボランティアとしてウチに一年以上前から毎週来てくれていて、一人暮らしのこの年寄りの話し相手をしてくれていたが、この事を話したのは、そう言えばこれが初めてだな。


えっ?「ひょっとして、零戦の開発に関わっていたのですか?」だと?


まあ、ワシが開発に関わっていたのは「零戦」には違いないが……。


いや、いや、「ゼロ戦」とも呼ばれている有名な「零式艦上戦闘機」とは違う。


通称「木製零戦」と呼ばれた機体の開発に関わっていたんだ。


えっ?「あの、最初は練習機として開発されて、最後は夜間戦闘機として活躍した機体ですか?」だと?


よく知っているな。


あなたは物知りだね。


ミリタリーマニア?


最近のカタカナ言葉はよく分からんが、あなた歴史が好きなのかね?


そうかね。特に戦史に関する本を読むのが好きなのか。


木製零戦についての話をもっと詳しく聞きたい?


話しても良いが、ワシは開発に関わっていたと言っても下っ端だったから、たいした話はできないよ?


それでも良い?


本を読んだり、映像を見るのでは得られない。実際に体験した人の生の証言が聞きたい?


それなら話そう。


木製零戦の原型になった「零戦艦上戦闘機」については、もちろん知っているね?


太平洋戦争……、戦後に進駐軍となったアメリカ軍に戦争の呼称を変えられる前は、「大東亜戦争」と呼ばれていた戦争で活躍した海軍の誇る名戦闘機だ。


開戦当初の活躍は凄まじく、アメリカ軍では「戦場でゼロ・ファイターと雷に遭ったら、ただちに退避せよ。空戦禁止する」と全軍のパイロットたちに指示が出されるほどだった。


アメリカ軍を主力とする連合軍の軍用機をバタバタと叩き落とした。


我が大日本帝国陸海軍の開戦当初の快進撃には、新聞やラジオの報道で、ワシらは大変興奮したものだった。


今の若い者には、自分の国が「戦争で勝っている」事に興奮するのがイマイチピンと来ないかね?


例えるならば、オリンピックで日本人選手が金メダルを獲得した時のような、あるいはサッカーのワールドカップで日本代表チームが勝利した時のような、あの興奮を何十倍にもしたような感じだ。


初戦の大勝利の原動力となった零戦の木製版をウチの会社で量産する。


社長以下社員一同は大変に光栄に思ったものだった。


ワシが当時勤めていた会社は、航空機メーカーではなくて、関西にある電気メーカーだった。


航空機を製造した経験などまったく無かった。


「電気屋」のウチの会社が木製零戦を生産するようになった理由は、開戦当初にさかのぼる。


戦争が起こった理由は知っているね?


そう、アメリカ合衆国が主導する連合国が、我が大日本帝国が海外から資源を輸入する事をストップしてしまったのだ。


金属資源や石油などの近代産業に必要な資源を本土からほとんど産出しない我が国は、輸入を止められてしまえば、戦車も軍艦も航空機も作れないし、動かす事もできなくなる。


戦わずして「敗北」する事をなるのだ。


それを避けるために、南方資源地帯を獲得するために開戦した。


初戦の大勝利により南方資源地帯を獲得したものの、我が国の資源不足は相変わらずだった。


家庭の鍋や釜や寺の鐘まで金属資源として供出しなければならないほどだったからね。


それで、開戦からしばらくして海軍上層部から空技廠に開発を命じられたのが、「木製零戦」であった。


そう、「空技廠」とは略称で正式には「海軍航空技術廠」、日本海軍の航空機に関する設計や実験を行う機関だ。


木製零戦は、零戦の練習機型として開発される事になった。


零戦の練習機はすでにあったが、実戦機と同じでジェラルミンなどの金属を大量に使っている。


搭乗員……、パイロットの養成のためには多数の練習機を必要とするが、練習機を木で作る事で金属を節約して、その分を前線で戦う戦闘機に回すのが開発の目的だった。


開発を命じられたのが空技廠航空技師の苦労は大変なものだった。


「紙で作れ!と言われようが、木で作れ!と言われようが、布で作れ!と言われようが……、軍の命令ならばやるしかない!」


と、技師は周囲に愚痴とも決意ともつかない事を言っていたそうだ。


もちろん。エンジンや足回りまで木で作るわけにはいかないから、そこは金属だった。


木製の機体は、金属機のようにボルトやナットを使う事はできない。


ほとんど全ての接合部は接着剤で貼りつける事になっていた。


機体の外板用には台湾桧を薄くスライスして、木目を四十五度方向にずらして貼り合わせた合板を製作する。


接着剤には尿素系樹脂「ユリ」とベークライト系樹脂の二種類を使用していた。


しかし、接着剤の「ユリ」に問題が発生した。


「ユリ」で接着して製作した合板は引っ張りには強く、少し引っ張ったぐらいでは簡単には割れなかった。


しかし、逆に少し強く曲げただけで、割れてしまうのだ。


スライス板を貼り合わせると、すぐにカチカチに固まってしまうのが原因だった。


これでは胴体や主翼の整形板には使う事はできなかった。


接着剤の「ユリ」の接着力が強すぎるのではないかと、推測された。


そこで、


「適度に接着力を弱くする方法がないか?」


と、検討されたのだった。


そこで採用された手段は……。


えっ!?もう帰らなければならない時間かね?


では、この話の続きは次回にしよう。

ご感想・評価をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ