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夢幻郷  作者: 国士無双
3/3

~季節外れの冬編~ 下

冥界へ赴いた魔法使い魔那は今回の異変の首謀者らしい人物にあたってみた。その一方で薫は一体・・・?

 焔は刀を中段に構え、腰を落とした。完全に臨戦態勢だ。

 「行きますよ!」

 そう言うと同時に、焔は接近してきて、袈裟切りで魔那の頸動脈を狙った。・・・とても速い。いやそれだけじゃない。速い上に滑らかな体裁きだ。

 私は避けた。だが焔は追撃しようと刀を薙ぎ払った。

 「あぶねっ!」

 私はお得意の反射神経で紙一重で後ろに跳んで回避し、10mくらい離れて様子を見ることにした。

 (さすがにこの距離だと大丈夫かな)

 次の瞬間、炎が私に襲いかかってきた。

 私は間一髪のところを横に避けた。

 「なぜ炎が!?」

 「それが私の能力です。炎を生みだし、操る能力です」

 「ちっ・・・厄介だな」

 「もう一度、照覧あれ!」

 今度は余裕を持って避けることができた。だが――

 「避けてばかりじゃ勝てませんよ」

 「わかってる。ここから反撃さ。バブルウンディネ!」

 水が魔那を包み、鎧と化した。

 そう、避けてばかりじゃ負けないかも知れんが勝つことは無いのだ。だから私は反撃の狼煙をあげたのだ。

 「ふむ。確かにこれではこちらの炎は効きませんね。ならば―」

 また、焔は接近してきた。

 「そちらがそのつもりならこっちだって!」

 魔那は箒の中の刀を取り出した。直刀だ。そして魔法で鉄の盾を作り、装備した。

 焔は急に止まった。

 「これで近づけないだろ?」

 「む・・・仕方ありませんね」

 焔は巨大な狼牙棒を構えた。それは焔の体の数倍の長さがあり、それと同時にとてつもない重量である。だがここではそんなことよりも―

 「どっからだしたんだ?」

 「ああ、これですか?これは始めから持ってました」

 「ありえねぇよ!」

 「そういえばちゃんと名乗ってませんでしたね。私は暗器つかいです」

 焔はそう言うと同時に得物を振り下ろした。しかし私はそれを受け流した。

 刹那、左の手首から赤い血が流れた。

 「また暗器か・・・」

 「ええ、投げナイフです」

 「く・・・ヒール」

 傷は回復した。だが、状況は全く好転しない。

 (何か突破口は・・・ハッ!)

 ある方法を思いついだぜ。

 「次でお前に攻撃を当ててやる」

 「ほう、いいでしょう。ならあの世に送って差し上げましょう!」

 焔はさっきと同じように振り下ろした。それを私は受け流し―たりはせずに避け、魔法を唱えた。

 「ブラインドナイト!」

 焔の視界は真っ暗になった。

 「しまった」

 (落ち着くんだ。敵の気配を感じるんだ)

 焔は最初こそ動揺したもののすぐに調子を取り戻して、平静を保った。

 「そこか!」

 焔はナイフを投げて、『ソレ』に命中した。しかし『ソレ』は魔那ではなく人形だった。

 「隙が空いてるぜ!」

 魔那は焔の死角となる後ろのほうで魔法を唱えた。

 「アグニバースト!」

 「がっ・・・はっ・・・」

 光の弾と炎の弾が連続で焔の背中に当たり、気を失った。

 「危なかった・・・」

 しかし、休んではいられない。ここの主を倒すまでは。

 急に背中に悪寒を感じた。誰か来たようだ。

 「あらあら、こんなとこで寝ちゃ駄目よ焔。・・・まだまだ子供ねぇ」

 私は直感した。―こいつが主であることを。

 「お前が主か?」

 「ええ、そうよ」

 やっぱりそうか。目の前に立っている人は亡霊らしい。かなり美しく、おしとやかな女性だ。私はてっきり老けているのかと思ったのだが・・・。

 「私は若い頃に亡くなったから、この姿なのよ」

 そんな私の疑問を察したのか、彼女はそう言った。まったく聡明な亡霊だぜ。

 「私はお前を倒して異変を無くすつもりだが、今降参して異変を無かった事にしてやってもいいぜ」 「なんのことかしら?」

 「おいおい、とぼけるなよ。被害者は皆、幽霊を見た、って言ってんだ。白状したらどうだ?」

 「・・・嫌と言ったら?」

 「勝負をするまでさ」

 「・・・そう。いいわ相手になってあげる」

 お互いの視線がぶつかり、火花を上げている。

 先に動いたのは魔那の方だ。

 魔法で作った刀で幽理に一太刀浴びせに、突っ込んだ。幽理の身体が真っ二つに。・・・と思われたが、幽理は顔色一つ変えずに、突然現れた盾らしきもので受け止めた。

 「どこから盾を!?」

 「さぁ、どこからでしょうね」

 幽理はほくそ笑んだ。

 「ならば、オーロラスパーク!」

 幽理の周りに魔法陣が現れて、そこから無数の弾が様々な軌道を描いて、幽理に襲いかかった。だが、彼女は最小限の動きで全て受け流し、防いだ。

 「そんな攻撃じゃかすり傷一つつけられないわよ」

 言い切ると同時に踏み込んで、手刀で攻撃してきた。

 「くっ・・・」

 こいつも速い。さっきの焔と同じだ。こいつらは何かしらの武芸を究めているみたいだ。その無駄の無い動きのせいで攻撃の予備動作がわからなかった。私は反射的に後ろに下がったが、相手はそうなることがわかってたのか、追撃しようと更に踏み込んできた。

 「ふむ。手刀じゃ当たりませんか」

 手刀の雨を避け続けると、急に手を止めた。私はその隙に懐へ潜って、刀を振り下ろした。

 「その手には引っかからないわよ」

 またもやどこから取り出したかわからない盾で受け止めた。

 (またか・・・あいつも暗器つかいなのか?)

 「どうしてかわからないみたいね。でも教えてあげないわ。・・・ただここは私の武器箱よ」

 (一体どういう意味なんだ?)

 「あらあら、絶望しちゃって、いいわすぐ楽にしてあげる」

 彼女の周りに五芒星の魔法陣があらわれた。

 「なんだ・・・?」

 そこから光のレーザーと弾があらわれた。まるで宝石のように美しく、規則正しく飛んでいる。

 「美しすぎる・・・」

 私としたことがつい見とれてしまった。レーザーが魔那の身体に目掛けて命中。・・・する直前で彼女の周りに結界が張られた。

 「目を覚ましなさい!魔那!」

 私はあの聞くたびに頭が痛くなる声に我に返った。声の主は、そう、薫だ。

 「おい、何故お前がここにいるんだ!?」

 「話は後、とりあえず奴を倒すのが先よ」

 彼女はそう言って、私の首根っこ掴んで引っ張ってきた。

 「いてて・・・引っ張るなこら」

 「2対1は分が悪いわねぇ。まぁ余興としては十分楽しめそうだわ」

 「余裕こいてられるのも今のうちだぜ」

 「魔那!これを受け取って!」

 彼女は急に眼鏡のようなものを投げてきた。

 「これは幽霊を視認することができるようになるものよ」

 「・・・いやちょっと待て、村人は、幽霊を見た、と言ったから必要無いんじゃ」

 「今は意図的に見えなくしてるだけよ。なんせ彼女は幽霊を操り、物質を変化させることができるのだからね」

 なるほどな。それだと辻褄は合うな。確かにその能力があれば、盾を瞬時に出す事も造作もないだろう。

 「それにこの眼鏡は幽霊の核も視認できるわ」

 そう言い、薫は片目をつむった。

 「わかったぜ」

 「ここから楽しい遊びとなりそうね。いいわ楽しみましょう。魂の尽くす限り!」

 「いくぜ!絶望の灯火よ!ダークフレイムスパーク!」

 魔那の掌から無数の黒い炎と光が交差しながら幽理を避けて、幽霊に次々と命中し、消滅していく。

 「これは幽霊だけを狙って・・・しまった!」

 「良い援護だったわ!とどめよ!夢幻白離!」

 薫の周りに八つの光弾があらわれた。

 「楽しかったわ・・・」

 最後にそう呟き、七色の光に飲み込まれていった・・・。






      ~翌日~

 「今回も無事解決できてよかったな」

 「それはいいなだけどね」

 「花が咲いてなく、まだ少し肌寒いのは残念だがな」

 「それも構わないんだけどね」

 「ん?どうしたんだ?元気ないぞ?お前の好きな宴会をやっているのに」

 「・・・で・・・が・・・よ」

 「え?なんだって?」

 「なんで人間がいないのよ!」

 今、神社の中で宴会をやっているのだが、集まっているのが、鬼だったり天狗だったり河童だったりと、とにかく人間がいないのだ。それに本人も酒が回っているのか、少し顔が赤い。

 「別にいいじゃないか。いつものことだろ?」

 「・・・はぁ・・・そうね」

 「それよりも教えてくれないか?」

 「何を?」

 「何故、冥界に私がいるのがわかったのか、ということと、あの眼鏡や奴の能力について、だ」

 私は問いただした。

 「順に説明していくわ。まず一つ目、あんたが冥界に行った事を凛が教えてくれたの」

 「そりゃまた何故だい?」

 「渚を探していて、途中であんたを見かけたみたい。教えてくれた理由はわからないけどね」

 「相変わらずサボってたんだな」

 「幽理の能力はね。ちょっと長くなるよ?」

 「ああ、いいぜ」

 「私は冥界に行くのが面倒だったから寝てたんだけど、突然、幽理の友達の妖怪―坂移 冬吾さかいとうごが来たわ」

 「・・・」

 「それでね。彼が私を唆してきたのよ。それで私は無理やり連れて行かれたの」

 「どうやって?」

 「彼は対象の位置を動かす能力があるらしく、それで私は冥界まで飛ばされたの。その時に、能力を教えてもらい、道具ももらったの」

 「なるほどな。それじゃあ何故そんなことしたんだ?」

 「やっぱりあんたも引っ掻かているのね」

 「直接聞きに行くか?」

 「そうね」

 「・・・?」

 「どうしたの?」

 「いや、なんでもないさ」

 「そう?それならいいけど」

 (なんてのは嘘だ。私の推測だが、今回の異変はまだなにか解決しきれてないものがあるような・・・)

 そう思い、薫の方を見ると、鬼と楽しく話していた。口にだすのは野暮かと思い、飲み込んだ。

 (まぁ・・・今は宴会の方を楽しむとするか)

 私はそう思いながら、手元の一升瓶を飲みほした。

 「お?良い飲みっぷりじゃねぇか。私と一杯付き合いな」

 それを見てた鬼に話しかけられた。

 「いいぜ。・・・そこの酒を取ってくれねぇか?」

 薫の横にある一升瓶を指して、言った。

 「ほら」

 「ありがとう」

 (やっぱごちゃごちゃ考えるよりも本能のままに動くほうが性に合ってる)

 鬼と数時間飲んだ末、私は寝てしまった・・・。



 パチクリ、私―八代魔那は目を覚ました。どうやら昼みたいだ。だが、酔いつぶれた妖怪は何人か死んだように眠っている。しかし薫の姿が見当たらない。

 (あいつはどこに行ったんだ?)

 そう思ったとき、神社の外から彼女の声がした。

「まったく・・・毎回毎回異変を解決しては宴会、解決しては宴会で大変だわ。せめて片づけくらい手伝ってもいいでしょうに」

 どうやら境内のほうみたいだ。私は仕方がないので手伝いに行った。

 「手伝ってくれるの?まぁ珍しいわね。一体どういう風の吹きまわしかしら」

 「文句言うなら帰るぞ」

 「冗談よ。冗談」

 「それじゃあ早速片づけるか、何をすればいい?」

 「えーっとねじゃあ――――」

 「魔那さん、薫さんこちらでしたか」

 割り込んできたのは里の人間だった。

 「一体どうしたんだ?」

 「いえ、実は・・・」

 「早くいいなさい。今はやることがたくさんあるの」

 薫は里の人間に指をつきつけて言った。

 「はい、それが・・・異変解決できてないのですが、どういうことでしょうか?」

 「「え?」」

 2人は同時に首を傾げた。

 「どういうことなんだ?私達は確かに元凶を退治したぜ?」

 「とにかくもう一度調べてみないといけないわね」

 「私達でなんとかするから、お前は里に戻っておけ」

 「は、はい」

 里の人間は帰ったのを見送って、

 「魔那行くわよ」

 「わかったぜ」

 そう言い、私達はあるところへ向かった。






 「ちょっと!どういうことなの!?」

 薫は机を叩いて抗議した。

 「あらあらなんのことかしら」

 抗議された人―否、亡霊はとぼけた。―そう蝶野幽理だ。2人は冥界の屋敷で抗議しているのだ。

 「なんで地上に来てまで人々に悪さをするの!?」

 「私はそんなことしてないわよ」

 「本当かよ。うさんくさいぜ」

 「いえ、本当です」

 焔が割り込んできた。盆に茶と茶請けを置いて運んでいた。

 「それに幽理様は何千年もここに居続けています」

 「じゃあどういうことなんだ?」

 「それは・・・私にもわからないです」

 「焔。あなたにはがっかりだわ」

 「どういうことですか?」

 「あなたは冥界ではどういう立場かしら?」

 「私は増えすぎた幽霊を成仏させるのが仕事ですが?」

 「そう。あなたは幽霊の数を調整することができる。故に今回の異変が起こった原因を解明してほしかったわ」

 「幽理様は誰が犯人かわかってらっしゃるんですか?」

 「いいえ、何にも」

 「そ、そうなんですか・・・とにかく!私達は犯人ではないのでここらへんでお引き取りねがいたいのですが」

 「私たちは納得いかないからこのままだとお前たちが犯人だぜ」

 「ですから私達は―」

 「お邪魔します」

 いきなり坂移冬吾があらわれた。

 「・・・まるで神業ね」

 幽理が皮肉気味に言った。

 「それは褒められているのかい?」

 「そう思っていた方がいいんじゃない?」

 「・・・そう、それよりもお前たち、そろそろ神社に戻った方がいいんじゃないか?」

 「どう答えようと、あんたの能力で戻されるんでしょ?だったら素直に戻るわ」 

 「・・・こいつが前に話していた冬吾って奴か?」

 「ええそうよ」

 「初めましてだな。よろしく」

 「ええ、こちらこそよろしく」

 「じゃあ私達は帰りましょうか」

 「あ、おい、ちょっと待ってよ」

 2人はあっという間にいなくなった

 「・・・・・・・・・」

 しばらく沈黙が続いた。

 「・・答えを教えなくてよかったの?」

 沈黙を破ったのは幽理だ。

 「別にいいんだよ。先に教えたら面白くないしな」

 「あなたらしくていいわ」

 「あの・・・私には誰がこの異変の犯人なのかわからないのですが」

 「冬ちゃん」

 「あいよ」

 「・・・え?ちょっと待っ―」

 焔と冬吾はあっという間に姿を消した。―そう冬吾の能力で別の場所に移動したのだ。

 


 今、夢幻神社は珍しく静寂に包まれている。目の前にいる死神のせいで。

 「今回の異変は悪意が無いとはいえ、こちらの責任です。申し訳ありませんでした」

 凛が淡々と話し、謝る。

 「ほんとにすまない」

 渚も続けて謝る。

 「あなたは何も悪くないわ。むしろ自分の部下のために自身が謝りに行く心意気は感心だわ」

 ここまでの話をまとめると、今回の異変は不知火渚の職務怠慢が原因なのだ。しかし、本人はたんに仕事をサボりたかっただけだから恐ろしい・・・

 「死神の仕事は幽霊を閻魔の下へ、つまり、あなたは私のところに連れていかなければならないのに、それをサボるから、夢幻郷の方に幽霊が流れ込んで、騒動になったのよ」

 「幽霊は冷たいし、精神感染するからそのせいで体に異変が起きたと」

 魔那は補足した。

 「ええ、おおむねそのとおりよ」

 「だから幽霊を減らし続けないといけないわけか・・なるほど!そういうことか!」

 「どうしたの?」

 「幽理がどうでもいい焔の話するから忘れていたが、あいつはこのことが言いたかったのか」

 「まさか、本人はわからないって言ってたわ」

 「だよなぁ」

 (でももしわかっていたとすれば奴はそうとう頭の切れる亡霊だぞ。さすが長く生きてるだけあるな)

 「日も暮れてきたし、私達はこれで帰ります」

 「あ、待って!渚は残って」

 「何故だい?」

 「お仕置きよ」

 「私も同じこと考えていたところだぜ」

 「え・・・ちょっと待ってください・・・」

 「「問答無用!」」

 「やれやれね」

 凛があきれた。

 


 「なるほどそういうことでしたか」

 焔が納得した。

 「これで事件の全貌わかっただろ?」

 「わかったのはいいんですが、私達はただのとばっちりですよね?」

 「そこは気にしたらダメさ」

 「そうですね」

 「幽理もお腹を空かせてるだろうし、そろそろ帰りますか」

 「そうしましょうか」

 2人は冥界にある屋敷まで坂移の能力で移動した。







   夢幻郷

 それは人間も妖怪も仙人もありとあらゆる生物が共存する世界。外の世界では絵空事になったものは皆、境界を越え、この夢幻郷に集まるのだ。薫と魔那の武勇伝は始まったばかりだった・・・ 



やっと終わりました^^;執筆する時間や推敲する時間があまりとれなくいので、どうしてもお待たせする羽目に、これからは善処しますのでよろしくお願いします。

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