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探偵演技  作者: トカゲ
6/7

狐に御伽噺その二

「調べてもらいたい人物の事なんですが」

 引き受ける、と言った覚えも無いのだが、カンラは話を続けた。話を聞くだけなら、と功刀は黙っている。

「最近、この街で起きた殺人事件の事を知っていますか? 確か二日前だったと思います」

「二日前?」

 二日前、という言葉に真っ先に頭を過ぎったのは、「探偵だ」と名乗りを上げている間抜けな自分の姿だ。

「ニュースを見ていませんか? 確か、今朝もやっていたと思います」

 今は狐もニュースを見る時代か、と功刀は肩を上げる。情報社会も発展したものだ、と。

「知らない話だな。聞かせてもらえるか?」

「もちろんです。二日前、とあるマンションで一人暮らしをしていた男性が殺害されました。 警察は押し入り強盗と見ている様です」

 カンラは、予め用意された台本を読むかの様に、流暢に喋った。

「サン・ハイツというマンションを知っていますか? 公園の近くの、大きなマンションです。家賃の高そうな」

「ああ、あの、家賃の高そうな」

 知っているも何も、二日前、まさにそのマンション、サン・ハイツの十六階、一番奥の部屋に侵入して、「探偵だ」と名乗りを上げた覚えが、功刀にはある。今にして思えば酷い失敗だ。

「事件は、そのマンションの一階で発生したようです。一階の、確か101号室ですね。被害者は、七構(ななかまえ)七味(ななみ)という男性です。――いや、ここまで話しておいてなんですが、被害者の事はこの際置いておきましょう。問題は、犯人がまだ捕まっていない、という事です」

 功刀は二日前の事を思い出す。あの日、あのマンションでそんな事が起こっているとは思いもしなかった。そんな様子も無かった。

「それで、実を言うと、私はその事件の犯人に心当たりがあるのです」

「犯人の心当たり? その、殺人事件の?」

「はい」

「探偵が出る幕も無い。解決だ」

 功刀は手を打つ。

「証拠がありません。私は見ただけです。喋るキツネの証言など、警察が取り合いません」

「見た? とは?」

「私も、日がな部屋で寝転がっているだけではないのですよ。身体に悪いですしね。ときおり、人が出歩かない時間に散策をします。それで、偶然そのマンションの前を通りかかった時に、被害者の方の部屋から不審な男が出て来ました」

 不審、という言葉が曖昧で、眉根を潜める。何をもって不審なのか、判断が付かない。

「なんというか、挙動不審でしたね。いかにも怪しかったです」

 カンラにしては珍しく、曖昧な証言に思えたが、気にせず先を促す事にする。

「時間は?」

「十一時頃、です。これは翌日のニュースで知った事でしたが、その部屋の住人、七構さんが殺されたのは十一時前後、と警察は見ているそうです。これは怪しいでしょう」

「怪しいといえば、怪しい」

 怪しくないといえば、怪しくもない。

「目撃者は、どうやら私だけの様です。言うまでありませんが、私の口から警察に話す、というのは無理があるでしょう。野湖を殺人犯と近づけるのも忍びないです。だから、貴方にお願いしたいのです」

 聞いてみれば、そう難しい事は無い様に思えた。

「それで、その怪しい男を調べてほしい、と」

「はい。その男の住所はすでに判っています。家の前まで尾行しましたから、名前も判っていますよ。丁寧に、性、名の表札がぶら下がっていました」

 カンラは誇らしげ、という訳でもない。どちらかというと、その手回しのよさの胡散臭さを誤魔化す様な早口だった。「怪しかったので」と聞いてもいないのに口にする。

「殺人犯を野放しにする、というのは、貴方にとっても気が引けませんか?」

 そんな言い方をされると、確かに、という気にもなってきた。いや、正直に言えば、身近で起こった殺人事件に対して、不謹慎な興味が沸いてきた、というのも否めない。

 もう一つ言うなれば、「殺人」なんて物騒な事件を近隣で起こされると、自身にも厄介な事がある。治安の悪化は住民の警戒を強める。結局の所、泥棒なんて不安定な職が成り立つのは、治安の良い穏やかな街でこそ成り立つものだ。少なくとも功刀はそう思っている。

「その男の住所を教えてくれないか?」

 気がつけば、功刀はそう口にしていた。何者かに、誘導されているかの様な、そんな不安もあったが、全く算段が無い訳でもない。その「怪しげな男」とやらの家に行くのは、なんにせよ悪くはない。「怪しげ」な奴は、大体金を持っている。それならば、探偵としてその男を調査するのも、泥棒としてお邪魔するのも、思いのままだ。

「それは、引き受けてくれるという事ですか」

 カンラの口調はあくまで穏やかだ。期待に声が上擦る事も無い。どちらかというと、こうなる事を予測していたかの様な、葉から垂れた雫は必ず地面に落ちる事こそが当然だ、と言いたげな、そんな落ち着きだ。いっそ、こちらの正体も見抜いていて、それでいてこの話を持ちかけたのではないか、と不安も募る。そんな訳が無いと思いながらも、喋る狐という偶想を前に、浮き足立っているのも確かだ。



 事件概要。

 サン・ハイツ一階の101号室にして殺人事件発生。被害者は七構・七味。偽名の疑い有り。その他、年齢、経歴、職業、などのデータも極めて不審。死因は鋭利な刃物による裂傷、出血死。凶器は発見されず。

 目撃情報無し。


 同日、同マンションの十七階にて「連続婦女暴行殺人鬼」が逮捕される。事件との上記の事件と関係性は認められないものの、調査は続く。

 尚、「探偵」を名乗った不審な男の足取りは掴めていない。

 以上。

 

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