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探偵演技  作者: トカゲ
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依頼人 カンラ(?歳)・職業「狐」

 依頼人、とやらと直接会って、それからどうやって断ってやろうか。野湖と一緒にバスに乗りながら、功刀はそんな事を考えていた。バスが揺れて、乗客達が波打つ。

「本当に、急な話で申し訳ありません」

 今更だが、野湖がそんな事を言った。「正直に言うと、探偵を探す、なんてやった事も無かったから、困ってたんです」

 俺の方が困ってる。と、功刀はこっそりと思う。正直に言うと、そもそも俺は探偵ではない。とも。

「どうして依頼人が直接来ない?」

 功刀は、疑問を野湖にぶつけた。

「それは」

 一瞬、野湖は口ごもったが、やがて、

「彼は、外に出られないんです」

 寂しげに俯く、また、泣き出すんじゃないだろうな、と功刀は気が気で無かった。こんなバスの中で泣かれたら、それこそ逃げ場は無い。

「狙われてるんです」

 程なく、野湖はそう言った。雨上がりの朝に、葉から雫が垂れるかの様な、そんな小さな声だった。

「狙われてる?」

 功刀も、小声で言う。「狙われてるから、外に出れないのか?」かなりの面倒事の様な気がした。

「はい」

「誰にだ?」

 ヤクザだとか、警察だとか言われたら、その時点で降りるつもりだ。依頼自体は初めから降りるつもりなので、つまり、バスから、という事だ。

「それが、その」

 言い辛そうに、顔をしかめる。

「保健所の、方に」

 保健所? と首を傾げる他ない。犬猫じゃあるまいし。


 功刀達が辿り着いた先は、高級で、無個性な住宅が立ち並ぶ住宅街だった。その内の一軒、赤い屋根の家に招かれる。野湖が鍵を鞄から取り出し、ドアを抜ける。鍵は一つで、複雑な作りではない、と一目で見抜いた。

「親は、仕事に行ってます」

「ここは君の家か?」

 これはなんの遊びだ? と首を傾げる。野湖は直ぐに「はい」と首肯した。

「昼間は、親はいつも居ないのか?」

 泥棒として、一応尋ねておく。

「平日は、両親共にいません。それが、何か?」

「他に家族は?」

 野湖が首を振る。平日、野湖が学校に行っている間は、完全に空くという事か。ただそこで、疑問が生じた、「依頼人は、この家に住んでるのか?」

 先程の会話の流れから、依頼人は家を出ない筈なのだから、当然、この家に居る事になる。というか、ここまで来て、ここに依頼人が居ないとなると、何をしに来たのか判らない。

「私の部屋に居ます。着いて来てください」

 言いながら、野湖は階段を上がる。渋々着いていった先に、『野湖の部屋』と書いてある安っぽいプラカードが無気力にぶら下がっているドアが見えた。そのドアの前で、野湖が立ち止まる。

「あの」

 と、声をかけて来た。目を伏せ、言い辛そうに、口を動かす。

「驚かないでくださいね」

「部屋が汚いのか? それくらいでは驚かない」

 多分、俺の部屋の方が酷い。と、功刀は思う。「俺も、最後に掃除をしたのがいつだったか、もう覚えてない」

「いえ、そう言う訳では」

 掃除くらいした方が良いですよ。野湖はそう付け足し、意を決したかの様にドアを開けた。

 部屋に入って直ぐ、これもまた安っぽい、ビニールの様なソファが見えた。辺りを見回す。窓際に勉強机があり、その後ろにはテレビが置いてある。殺風景な部屋で、盗む程のものは無い。部屋の真ん中に、妙にリアルな狐の置物があるが、あれを盗もうとは思わない。

「彼が依頼人です」

 野湖がそう言った。功刀は部屋を見回す。誰も居ない。

「誰も居ない」

 直接、口に出した。直接口に出して、疑問が氷解する事もある。

「いえ、あの、彼です」

 そう言う野湖の視線の先は、妙にリアルな狐の置物だった。まさかあれの事じゃないよな、と思い、功刀は顔をしかめる。しかめた矢先、狐の置物がのそり、と動いた。いや、置物ではない、本物の狐だ。黄金色の毛並みが、滑らかに動く。


「やぁ、ノコ。おかえりなさい」

 ――と、狐が口を開いた。余りに滑らかに喋るものだから、最初は野湖が喋ったのか、と疑ったが、声の出所と、声質を考えると、狐が喋ったとしか思えなかった。功刀は直ぐに飲めこめず、呆然とする他無かった。

「カンラ」

 野湖が言う。「こちらが、探偵の……えっと」

 と、こちらに目を向けて来た。名乗っていない事に気付いて、「功刀」と一言だけ口にした。それから、「これは、どういうことだ?」と尋ねる。

 答えたのは、野湖ではなく、狐の方だった。

「私はカンラ。見ての通り、キツネです。キタキツネですね。今は、ノコにお世話になってます」

 カンラ、と名乗った狐は、流暢に自己紹介までして見せた。礼儀正しく、頭まで下げる。そんな馬鹿な。

「最近のロボットは、凄いな」

 一応、現実逃避をしてみたが、正直な所、カンラはロボットには見えなかった。むしろ、どちらかというと、生きている、本物の狐にしか見えない。

「ロボットではありませんよ。貴方も本心では、そうは思っていませんね。受け止めてください、確かに私は喋る事が出来ますが、私に言わせれば、ロボットという存在の方がよほど不可思議で、イビツですよ」

「イビツですよ、と言われても」

 俺にはやっぱり、喋る狐の方が歪としか思えない。と功刀は、頭を抑える。

「キツネが喋ってもいいじゃないですか」

 と、カンラが言う。

「そうですよ。狐が喋っちゃいけないなんて法律はありませんし」

 と、野湖が言う。野湖がカンラの影響を受けたのか、それともカンラが野湖の影響を受けたのか、野湖とカンラの口調は酷似している。どちらかと言えば、前者だろうな、と功刀は思う。

「法律に触れてないなら、問題無い、な」

 自分の事を棚に上げて、法律、と口にした瞬間、全てがどうでもよくなった。喋る狐が居てもいいじゃないか、と。認めた、というよりは、諦めた。

「それで、つまり」

 功刀は肩を上げる。

「はい。依頼人というのは、私の事ですよ」

 カンラが察しの良い所を見せた。

 依頼人。というのは嘘だろう。と功刀は思う。依頼獣だ、とつまらない事を考えたが、口には出さなかった。




 遂に一人目の依頼人登場です。一人目から、やっちゃった感が否めませんが、負けません。


 追記。

 カテゴリから、「感動」を抜きました。「嵐の夜に」を見た後に、感動ってなんだろうと考えた結果です。良い話でしたね。

 代わりにミステリを入れてみました。なんだか流動してますね。

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