第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・2
今日も悪夢だった。冷や汗が服と肌を貼りつかせていた。
連日のように見る悪夢。
ここまで見てしまうとそれが事実であるかのような錯覚を受ける。
梓は布団から起き上がるとカーテンを開けた。まばゆい光が差し込み、目を細めた。
りりりりりりりりりり。
セットしておいた目覚まし時計が鳴り出した。どうやら今日はいつもより少し早く起きていたみたいだ。
「はあ……今日もいい天気……」
なぜかため息が出る。最近調子が悪い。
「梓、起きたの?」
伸びをしていたところに姉の高麗知が部屋に入って来た。梓よりも二つ年上だ。同じ高校に通っている。
「え? あ、うん」
「今日は朝から打ち合わせでしょ?」
「それは昨日……ってあれ? 今日何日だっけ」
「ちょっと、何言ってるのよ」
梓はちらりと卓上のカレンダーを見る。デジタル文字盤つきのわりと高かったやつだ。
あれ?
何かおかしい……けれど、何が?
「あはは。そうだった。今日は朝早かったのよね」
「そうなら早く着替えなさい」
「は〜い」
高麗知が出て行くのを確認すると服を着替え始めた。
「うっ……つ」
頭痛がした。二、三日前から頭痛がする。おかしいと思ったが医者には行ってない。家族にも心配をかけるまいとしてしたことだが、ここまでくるとさすがにまずい。
おかしいといえば、昨日何をしていたかを覚えていない。むしろ今日と同じことをしていた気がする。姉が入って来て、学校に行って打ち合わせをする。それで……
デジャヴ?
「おかしい……」
まだおかしいことはある。自分が自分でないよううな気がする。テレビ番組か何かでこういう症状を見た気がするが、内容を忘れてしまった。
「ま、シャワーでも浴びてさっぱりしようかな」
パジャマを脱ぎきったところでそう閃いた。
「うん。そうしよっと」
ハンガーにかけておいた制服を取るとドアを開ける。顔を出して外を一応確認する。一応というのは今の時間、梓の家には男はいないからだ。いるのは彼女の母と姉、妹の四人だ。父親もこの時間家にいない。
「うん……今日の朝は洋食かな?」
キッチンからはハムの焼ける匂いがしていた。
梓はバスルームのドアを開けた。