第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・21
互いを結ぶ、絆
「それで、私たちをどうするつもり?」
対して同じ紅い色でも、真咲のものは澄み渡り、一点の曇りもない。迷いのない真っ直ぐな瞳。
「消えろ」
まるで死刑宣告のように向けられた手。それを軸にし、腕にまとわりつくような術式が展開される。幾何学的な紋様が浮かび、それは腕を丸ごと銃口にしたかのような巨大な銃となった。ただし、機械的なものではなく、生物的な生々しい外見。
「……っ?」
「大丈夫」
真咲はゆっくりと、安心させるような口調でつぶやき、翼の背後に立つ。すっと彼女の手が翼を包み込むように抱きしめた。
臨界まで達した魔力が弾丸としてミシェルの銃口から放たれる。
が――――――
その一端が二人に届くことすら叶わなかった。
魔力は、放たれはした。だが二人に届く寸前に見えない壁にでも当たったかのように霧散したのだ。決して偶然ではない。翼と真咲の起こした必然。
「ば、かな……」
「あなたにもわからないでしょうね……人間と共存するということが……私も、もう少し気づくのが遅れていたらあなたと同じになっていたかも知れない。人間は利用するものだと、ただそう考えるだけの悪魔になっていたかも知れない。
でも、今はどれも仮定の話。もう道を間違うことなんてない。私には信頼できる人間がいるんだから……」
「いけるのか、真咲?」
何を彼女がしたいのか。そんなことは聞かなくてもわかっている。シルフィードが〈深精神共鳴〉と呼ぶもので、二人の思考はつながっていた。
真咲は小さく頷いた。
それを確認すると、翼は彼女の力なく垂れる右手の下に自らのそれを滑り込ませ、相手の手を支えるようにして、ミシェルに向ける。
大きく真咲の漆黒の羽がはためき、舞う。激しい魔力の暴風によって普段よりも多く羽が舞うと、まるで翼自身が生え変わったように、色が漆黒から純白へと変化した。
「〈白き咆哮・金色の弾丸・その力を今解放せん・顕現せよ〉」
今なら真咲の紡ぐ言葉がわかった。そしてその意味も。
重なりあった二人の腕を中心に、ミシェルのものと同じような術式が浮かび上がる。だが同じようなだけで、内容はまったく違う。その証拠に顕現した銃は二人の手をつなぐようにしたもので、白銀の輝きを持っている。紛うことなき意思の表れ。
「なぜ……だ。どうしてお前ばかり……」
「さぁ……それは私にもわからないわ。ただ一つ言えることは、あなたにも時間があるということ。それを知ることのできるだけの時間が、たっぷりとね」
銃口が寸分も違うことなくミシェルの額へ向けられる。真咲の狙う先が翼にわかる。
「さようなら……ミシェル・ハイドフック」
二人の思いを代弁するかのような透き通った――色でいうならば白い咆哮がビルに木霊し、建物全体を振動させた。