第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・20
そして終幕へと近づく……
「契約者との最後の会話は済んだのか?」
そんな二人に冷めた声が向けられる。
金髪の男は口から真紅の血を滴らせ、笑っていた。暗い、心の奥まで暗くなるような不気味 そのものの笑み。掲げられるように挙げられた右手でシルフィードの喉をしっかりと掴んでいる。彼女の口角からも血が溢れていた。
「茶番には厭き厭きしていたところだ」
ミシェルは口元の血を舌で舐め取ると、シルフィードの体を投げ飛ばす。彼女の体は床に落ち、二度三度と跳ねた。そのまま強かに体を壁に打ちつける。
「お前……」
翼の口から忌々しげに言葉が吐き出される。
「なんだ? 馴れ合った相手がそんなに心配か?」
ミシェルの放つ言葉の一つ一つが冷たいナイフの切っ先のように翼に突き刺さるようだった。どの言葉にも相手を射るような殺意が込められている。しかし……
「気をしっかり持って。一種の威圧のようなものだから……あなたと私には通じない。そんなもの」
真咲がはっきりと断言する。
確かにそうだ。今の自分と真咲にそんなものは通じない。自分たちより相手が強いわけなどないのだから。絶対的に信頼し合っている。負けることはない。
翼はそう思うと、真咲の左手を握った。
はっとした表情で真咲が翼を見る。その目には驚きと、どこか嬉しさのようなものが宿っていた。
「ふん……最後の最後まで、お前たちは馴れ馴れしいな……目障りだ」
梓の魔魂から補給された魔力のためか、ミシェルは禍々しいほどの雰囲気を放っていた。それが彼の紅い目をどす黒くしていく。