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第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・19

「こっちも大丈夫か?」

 そして出た言葉。

「ついでみたいに言わないでよ」

 真咲はどこかひきつった笑みを浮かべた。対して翼は舌打ちをする。右腕が痛い。熱く焼けるような痛みが真咲にあることを翼ははっきりとわかっていた。それでいて彼女が無理をしていることにも。

「何よ……」

「頼れって言ったよな、俺は?」

 二人の間に訪れる一瞬の沈黙。

 どこか気まずい雰囲気。真咲は半ば翼を切り捨てるようにしてここに来たわけで。翼はそんな彼女を追いかけここまで来たわけで。

「そうね……」

「なら、なんでだよ。なんで……お前は一人で無茶したがるんだ。人を無理やり巻き込んでおいて、いらなくなったらポイか?」

「いらないだなんて……」

「違わないだろ。少なくとも、俺をここに連れて来なかったことで俺はそう思ってる。少しはマシになったかと思ったら、その矢先に突っ走るなんて――」

「違うっ!」

 真咲は翼の言葉を遮り、声を上げた。

「私は、そんなつもりで翼を置いて来たんじゃない。私は……」

 何のために?

 何のためにここに来たのか。そんなことの答えは出ている。梓を助けるためだ。彼女を護ると言ったのは自分だから。その責任がある。自分を認め、自分が認めた存在だからこそ、その責任が重く、それでいてしっかりとした意味を持っている。

 決して突き放すことはできない。彼女のことは。どこか自分に似ていて、自分より弱くて、寂しくて……。そんな彼女を放っておくことなどできないから。

 ただそう思うのは真咲だけだろうか。

 そうでないという証明が今目の前にいる翼だ。誰よりも、梓のことを想っていた。なぜだかはわからない。だが真咲と、もしくはそれ以上の感情があったのかも知れない。

 彼にとっては護るための理由など、ないのだ。理由や責任、それ以前の問題なのだ、彼にとって。

 それでいて、真咲のことまでも心配する。

 結局――

「……馬鹿みたいじゃない……これじゃ」

「やぁっとわかったかよ」

 翼は腰に手を当てて、盛大にため息をついた。そして、笑う。

「これ以上言い合いしても仕方ないと思ってたところだしな……いつまで寝ているつもりだよ、真咲」

 彼の言葉に自然と口の端が笑みの形になるのがわかった。

 まったくだ……自分は、大切な人間が目の前で辛い目に遭っているというのに、地べたにはいずくばったままなのか。

 

「立ってくれ。あいつを倒そう」

 

 なぜかはわからないが、彼にそう言われるのが嬉しかった。期待され、ともに歩めることを予感させる言葉。

 真咲は体のあちこちから送られてくる痛みを無視すると、力強く立ち上がった。弱々しく萎えていた翼をはためかせると、漆黒の羽が舞った。


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