第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・17
「お前は……聖警察の……」
「シルフィードと申します。まぁ、ご存知でしょう。あなたならば」
「噂は聞いていたさ。いや……一度ぐらいは会ったことがあるやも知れんな。風遣い……四大精霊の名を冠す者の一人か」
「こちらもあなたのことはよく知っていますよ。しかし……生憎ですが、あなたと長々話をしている暇はないもので。倉本梓さんを解放しなさい」
前半まではどこか柔らかい口調だったが、後半はきっぱりと冷気のようなものを感じさせる口調。
「無理だと言ったら?」
「その場合は――」
シルフィードの両手に自動拳銃が実体化される。要は断った場合、実力行使というわけだ。むしろそれ以外に道はないと、シルフィードは考えていた。
「くく……くくくく……はははははは! 貴様ごときが今の私に敵うと思うてかっ!」
ただ一声放っただけ。それだけなのにも関わらず、シルフィードの髪が揺らめいた。その予想以上の魔力に彼女は口の端を歪めた。
「大丈夫なのかよ……」
シルフィードの横にいた翼がつぶやく。
「大丈夫です。時間稼ぎ程度なら、私でも。その間に倉本さんと真咲を」
さりげなく目配せをすると、翼がはっきりと頷いていた。その様子に満足げな表情をすると、シルフィードは銃を構えた。
「いきます」
ふっ、と突如として彼女の姿が消える。一瞬後にはミシェルの背後にまわっている。残像すら残さない、超高速の移動。
「っ!」
さすがのミシェルも出だしの速さのためか、背後に現れたシルフィードの横蹴りをもろに喰らう。