第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・16
「いやぁぁぁぁ、ああああぁぁぁぁぁ!」
どういうことか、梓の額にかかる栗色の髪が、額に近い部分から徐々に白くなっていく。
対してミシェルは快感に浸るように、表情を崩していた。
「素晴らしい……力が溢れるとはこのことを言うのだろうな。倉本梓、殺さなければならないことが実に惜しい」
「か、勝手なこと言ってるんじゃないわよ」
真咲が倒れたままの姿勢で、ミシェルを睨みつける。
「その無様な体勢で何を吐くと思えば、そんなことか。はっ……笑わせてくれるな。それとも何か。私に指一本触れさせないつもりで来たのではあるまいな? その程度の力で」
ぎり、と音が聞こえるのではないかというほど強く、真咲は奥歯を噛み締めた。
「言葉だけでは何もできない。何も伝わらない。わかっているだろう? 所詮、口先だけで護ろうなどと言うのは、ただの馬鹿だ。力が伴わなければ、それは虚言。逆に自らを傷つけることとなる」
そこでミシェルは梓の額から手を放し、真咲に向き直った。手を退かされた梓は喘ぎ声を上げ、肩で息をしている。
「これで二度目だな。我々が……いや、私がお前から何かを奪うというのは」
どこかねっとりとした笑みを浮かべ、真咲を見下ろす。
「わかるか、私の気持ちが? 清々しいものだよ。お前から奪えるというのはな。復讐とはこうでなければならない。相手の顔が苦痛で歪むのを見なければ収まらないだろうからな。これが終われば、次はお前だ」
ミシェルの笑みに背筋に悪寒が走るのがわかった。それと同時に湧き上がるのは、抑え切れようもない怒り。
「悪趣味なのは、相変わらずだったんですね」
今にも爆発しそうな真咲の怒りを薙いだのは、突如として響いた涼しげな声だった。
「……?」
これ以上ここに来る者はいないと思っていたミシェルが訝しげな表情とともに声のした方へと視線を飛ばした。
そこには白い制服を身にまとったシルフィードの姿があった。横にはぜぇぜぇと荒い息づかいの翼の姿もあった。