第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・15
「な、にを……」
真咲の言葉にミシェルは不敵に笑うと、梓と視線を合わせる位置に立った。
「神の御子か……そんなことをあいつは言っていたな。まさしく、その通りか。素晴らしい魔力だ……」
その白い手が梓の頬を舐めるように伝う。まるで壊れやすいものでも扱うかのようなほどゆっくりと。梓はぎゅっと目を閉じ、ミシェルと目を合わせないようにしていた。彼の目を見たら、まるで恐怖を直視してしまうようで、嫌だったからだ。
「最後に訊く。協力はできないのだな、倉本梓?」
まさしく、最後の通知なのだろう。その言葉に梓は閉じていた目を開け、ミシェルの視線を真っ向から受ける。もう恐怖などない。
これで梓がノーと答えれば、殺すなりして、梓から魔力を奪うつもり……本気の目をミシェルはしていた。殺すことなど厭わない、無感情の瞳。
梓はその瞳と倒れたままこちらを見る真咲の瞳を見比べた。
両方とも真赤の瞳。ルビーを溶かしたかのようと言えば美しいものだが、実際は血を溜めたかのような、どこか生々しい光がそこにはあった。
だがその奥に秘められた気持ちは違う。そこが決定的な、二人の違い。
だから、彼女はゆっくりと口を開いた。
「当たり前よ。あんたに協力するぐらいなら、真咲と死んだ方がましよっ!」
梓の叫びにも似たそれが、室内にこだました。反響する声が収まると、
「そうか、実に残念だ」
芝居がかった仕草で肩をすくめると、ミシェルはその手を彼女の頬に当てた。先ほどよりも強く。
「あ……あああああああああああああ!」
梓の口から悲鳴にも似た声が漏れ、徐々に大きさを増す。目が見開かれ、口は限界に近いほどに開かれ、声を絞り出している。