第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・14
「ふ……さすがは、堕天使の末裔。衰えてもなおその力」
「今更ね。そっちこそ、早く本気出したらどう?」
「言われなくとも……っ!」
そう言うミシェルのまわりを暴風が吹き荒れる。身にまとう魔力が増えているのだ。魔力は不可視のものだが、そういった現象を引き起こすことはできる。二人の距離が一旦開く。だがそれも一瞬。再び互いの間合いとなる。
魔力を増やしたせいか、ミシェルの手にあった剣がより巨大に、分厚くなる。剣というには無骨で、鉄板に近い。
「散れ」
剣を振り上げ、振り下ろす。ただそれだけの動作。
だがその行動からくるプレッシャーが先ほどとはまったく違う。
「ちっ」
そのせいが、回避が一瞬遅れた。
左に飛ぶようにして攻撃をかわそうとするが、遅い。めきっという音とともに刀を持った手が普通とは反対の方向に曲がった。剣が厚かったためか、切れるということはなく、右腕はだらしなく垂れた。
「ぐっ……くっ」
額をいやな汗がつたう。唇を噛むようにして痛みを堪える。ここで受けにまわるわけにはいかない。
左手の刀を消し、銃を顕現させる。
外すわけのない距離からの速射。
ガゥン……ガゥンゥン……
「甘い」
普段ならば絶対に外さない距離にもかかわらず、弾丸はミシェルをかすることもなかった。
驚く真咲にミシェルは一息に接近する。銃を構えたままの手を掴み、足払い。本来ならば触ることさえ容易ではないであろう相手に、そこまでできた。
「やはり、堕落しきっているようだな……真咲」
腕を捕ったまま、ミシェルは真咲を見下すようにする。
「は……それが何だというのよ。あなたも、腕、落ちたんじゃないの?」
「ほざけ。そのまま無様に友とやらが死に逝く姿を見ているがいいさ」
手を離すと、梓に向き直った。振り向きざまにひるがえされたマントから無数の黒い針が打ち出され、真咲の服を床につなぎ止める。なんの変哲もない針のようだが、真咲が力を入れようとも、体はぴくりとも動かない。