第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・13
すっと真咲の眼が閉じられた。
先ほどの乱戦が嘘のような、耳が痛くなるほどの静寂。
「…………」
梓は自分の鼓動が速くなるのを感じていた。いっそのこと、このままときが止まってしまえばいいのにとすら考えた。そうすれば、誰も斃れることがないのに。
なぜ、そこまでするのか。
なぜ、そこまでして復讐をしようとするのか。
なぜ、真咲でなければならなかったのか。
様々な思いが反芻するが、おそらく二人にとってしっかりとした答えなどないのだろう。ただ互いの満足のため。最終的には究極の自己満足のため。
所詮、その程度なのかも知れない。
真咲は相手に戦いを挑まれることによって自らの罪を償い、ミシェルは挑むことによって散ってきた同胞を報いるため。
どちらも逃げではないのだろうか。
己が罪からの。
過去の仲間を殺す、その罪からの。
止まらなければいけないのだ。そんな時間は。誰かが誰かのために相手を殺すなどといった。それ以外に誰かが誰かのためにすることはあるのだから。
「……だ……だよ。駄目なんだよっ!」
思わず梓は叫んでいた。
静寂が引き裂かれ、互いの腕に力がこもる。
図らずとも、梓の叫びを合図にし、二人は距離を詰めた。
真咲の刀が空を両断するように振り下ろされ、ミシェルの剣が空を押し切るかのように打ち上げられた。
鼓膜が破れんばかりの金属音。
明らかに質量の差があるようにも思われる二振りの刃は、互いの中間点で停止した。いや、止まらざるを得なかった。互いの身を擦り合わせ、せめぎ合う。