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第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・10

 どうするのだろう。

 自分は、どうするのだろう。

 梓を助けることが、今の自分の目的であり、存在理由でもある。

 ただ、それを終えたら? どうすればいいのか。

 もし自分が殺されたとすれば、それで終わりだ。しかし相手を殺したら、自分はどうすればいいのか?

 梓たちと、学校生活に戻るのか? それともまた独りで彷徨うのか?

 わからない。

 確かに、人間とは馴れ合えない存在なのかもね、私たちは……

 そんな思いが反芻する。

 顔を上げれば、そこには梓のどこか悲しげな瞳がある。しっかりとこちらを見て、続く言葉を待っている。期待と不安が入り混じったそんな瞳。

「まさ……」

「はい。そこまでにしてもらいましょうか、梓さん?」

 背後からそれ以上の会話を制す声が届く。再びがらりと口調を変え、

「真咲。お前が答えられないのなら、私が答えを彼女に言ってもかまわないのだぞ?」

 対して真咲は無言のまま。

「簡単だろう? 私を殺したとしても、その手で友を抱くことができるのか? 友と笑うことができるのか? 友と歩むことができるのか? 否、答えは否だ。何百何千の屍の上に立つ貴様が、そのようなこと許されるわけがない。所詮、独りだ」

 ごうっと室内にも関わらず風が吹き、ミシェルを覆った。彼を中心に竜巻のようになった風の壁は、しばらくするとその勢いを弱めていく。

「血に濡れたその手で、仲間を抱くことはできないのだよ、ルシファー」

 声とともに現れたのは黒の外套をまとったミシェルの姿。眼はより深い朱に染まり、爛々と輝く。額から二対のとげのような角が生えていた。最も変化したのは、その背中から生える皮膜状の羽だろう。映画やゲームで登場するデーモンのそれを連想させる。浮き上がる血管が生々しい。唇の端からはみ出すようにして見える犬歯がてらてらと唾液に濡れていた。

「だから……なんだ」

 唸るようにつぶやく真咲。

 梓に背を向けるのと同時に、漆黒の羽が舞う。真咲の背中から天使の白い羽をそのまま黒く染めたかのような翼が生える。それと同時に制服をまとっていた身には、紫を基調にしたマントが顕現し、はらりとひるがえった。頭の左右のこめかみからそれぞれ生えた角は彼女が人間でないと主張している。艶やかな黒髪の間から見える真紅に染まった眼に金色の瞳が縦長に伸びた。

「真咲……」

 梓が真咲のこの姿を見るのは正確には二回目なのだが、彼女が人間でないとはっきりと宣告されたかのように呆然とした。

「ごめん……梓。いくらあなたが近くにいてくれても……やっぱり私がいれないのかも知れない」

 肩越しに真咲がそう言う。ただそれも一瞬。

「―――――」

 続いたのは人外の言葉。彼女の右腕を幾何学的な紋様が取り巻き、回転拳銃を形作る。

「―――――」

 どこか禍々しさを感じさせる詠唱とともに、ミシェルは梓の家で使ったショーテルではなく、大振りの刃を顕現させる。

「……来なさい」

「ミシェル・ハイドフック……残月の夜、参る」


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