第三章「独りの騎士・孤独の姫」・28
ついに第三章最終話!……真咲の選ぶ道は…?
「で……あいつがお前の言ってた『化け物』ってやつか?」
倉本家一階の縁側に腰掛け、翼は口を開いた。隣では相変わらず真咲がだんまりを決め込んでいる。先ほどまで腰まであった髪は肩口で切りそろえられている。それがどこか寂しげだ。
「ふぅ…………」
本来こんなことをしている時間などないのだが、彼女が黙ったままなのではどうしようもない。
「あいつは……」
と、ようやく真咲の口が開かれた。
「私の言っていた『化け物』の一人よ。最初に『化け物』と表現したのは誰が黒幕かよくわからなかったから」
「つまり何人もいるってことか?」
「ええ。ただ今この世界にいるのはミシェル・ハイドフックと呼ばれる者のみよ」
そうか、とどこか気のない返事を返す翼。
「よりによってあの男だなんてね……」
「戦友とか言ってたな」
「そう……この前話したでしょ? 戦いのこと。ミシェルは最後まで私の側についていてくれた……まぁ、最後には裏切られたわけだけど……古い、昔の笑い話よ」
彼女の顔は夕日の橙色に染まっていた。自嘲気味な笑みを浮かべている。
「それじゃ、こんな話はおしまい」
「……さっさと追っかけようか」
翼の言葉を制すかのように真咲は縁側から勢いよく立ち上がると、夕日を背に翼に向き直った。
薄い影が真咲の顔に落ちる。そしてゆっくりと朱色の唇が開かれた。
「ここからは私自身の問題だから……」
「何?」
吐き出された言葉。
それが意味することは一つ……
まるで翼を突き放すかのような言葉。
呆然とする翼を尻目に、真咲は彼から視線を反らし夕日を睨むかのようにして立つ。背中から漆黒の羽が顕れた。
「それじゃ、ね。翼」
肩越しに振り返り、どこか憂いを帯びた真紅の瞳が光っていた。
ただ一言……引き止めるための言葉が出ればいいのに。
ただ一歩……引き止めるために足が進めばいいのに。
それが、できない。なぜかはわからないが。
彼女のせいなのか? それとも自分が意識のどこかでその言葉を止めているのか?
縁側から立ち上がろうとした姿勢のままの翼を置き去りにして、彼女は飛び立った。
「……ま、さき。真咲ぃ!」
その言葉が出たのは彼女の姿が小さくなった頃だった。
ようやく第三章まで公開することができました。次回第四章が最終章となります。真咲の決着はつくのか……それとも……