第三章「独りの騎士・孤独の姫」・27
「真咲、お前もいつまでそちら側にいれば気が済むのだ? そんなことのためにこの世界に戻って来たわけじゃないだろう?」
ミシェルは最後に暗い笑みを浮かべると黒い外套をはためかせた。風もないのに揺れる外套。
いや――
外套の動きに従うかのようにして、室内を暴風が駆け抜けた。窓際に置かれていた花瓶が倒れ、カーテンは乱れ舞う。机に置かれていた文房具がばらばらと吹き飛んだ。
「させるかッ!」
声を荒くし、両手に片刃の剣を顕現させる。そしてそのまま一挙動で投擲。
残像すら見える速さで刃はミシェルの眉間に吸い込まれた――――かに見えた。
「まだ……遅いな」
真咲の攻撃はミシェルの三日月形の刃によって阻まれた。ショーテルと呼ばれる剣だ。それがミシェルの得物。
ショーテルにより防いだ斬撃を一笑し、弾き返す。金属の擦れ合う耳を突くような乾いた音がこだまする。
「散れ」
大きく湾曲した刃は真咲の首に向かう。寸分違わず彼女の首を弾き飛ばすために。
考えるのよりも先に体が動いてた。瞬きをする間もなく真咲は体をひねる。
かわせるか……!? そう思考したのはすでに刃が自分に達しようとしていたときだ。
刃は真咲の首、その手前の空間を裂いた。ばっさりと真咲の長髪が舞った。
「ふん……避けたか。だが、まあいい。今回は挨拶がてらだからな」
そう言うのと同時にミシェルから膨大な魔力が放たれた。翼の目にも見えるぐらい強力な魔力の放出。
「ちっ……」
真咲は咄嗟に魔法防壁を展開。耳を突くかのような音が響いた。