第三章「独りの騎士・孤独の姫」・26
「……あなたが親玉とはね。ミシェル・ハイドフック」
敵意など生易しいものではない、殺意を込めた視線。より紅く光る真咲の目は男――ミシェルを睨む。
「堕天使と聞いてな……あいつに頼んで接触させたが、まさかお前とは思わなかった。……しかし人間と契約――いや信頼関係にあるらしいな。よほどそいつが気に入っていると見える」
言葉の後半から視線は翼に移る。
その目に見られた瞬間、翼の心臓は凍りついた……かのようだった。真咲の目よりも数段人を引きつけるような光を放っている。同時にモノの価値でも見るかのようなそんな光でもある。
「翼……なぜ真咲に従う」
「……別に従ってんじゃねえよ」
「ほぅ……では何だと言うのだ? 何を根拠にそう言い切れる?」
どきりとした。そう言われてみれば、自分は真咲にとってどんな存在なのか。考えたこともなかった。
自分は真咲の契約者である。しかし契約自体何なのか、それを翼はよく知らない。真咲も言おうとしない。
曖昧なまま、今までを過ごしてきたのだ。理由を聞けば引き返せなくなると腰が引けていたのだろうか。
はっきりとした言葉が返せない。
「……なるほど、事情を把握し切れていないと言ったところか? では、一言忠告しておこう、人間の小僧」
心を読んだかのようか言葉に翼はさらに返す言葉が見つからなかった。
「事情も知らぬ者が……我々のことに口出しをするな」
有無を言わせない口調。しかし口調が強いわけではない。強いてあげれば、言葉が強い。