第三章「独りの騎士・孤独の姫」・25
びくり、と真咲と翼二人の肩が動く。
まさか……
二人の脳裏を嫌な予感がよぎる。最悪の予感が。
「お前……さっき大丈夫って言ったよな?」
「え、ええ。言ったわよ、確かに」
「……悲鳴だったぞ? それも結構切迫した声でさ、しかも梓の」
続く言葉は必要なかった。冷静に分析している暇などない。
二人は全力疾走で駆け出す。二階への階段を確認。二段飛ばしで駆け上がる。前にも似たようなことをした覚えがあるが、今は関係ない。
「梓ぁぁっ!」
無意識のうちにそう叫んでいた。そうすればもっと速くなれるように感じて。
梓の部屋の前まで来ると、ドアを勢いよく開け放つ。
バン!
「―――――――ッ!」
真咲は絶句した。その部屋にいた人物に対して。
「何っ?」
梓の部屋には……いや、梓の部屋だった場所には見知らぬ男がいた。身にまとった黒い外套の下で、梓を抱きかかえるかのようにして。
「……遅かったな。天城真咲、そして折笠翼」
低い、唸るような声が男の口から放たれる。
「…………」
「真咲……真咲?」
翼の横では真咲が視線を男に向けたまま、唖然としている。意識は完全に前方の男に向けられているようだ。
「久しいな……我が戦友よ」
金髪の男だった。それも自然な金髪だ。つまりは日本人ではない(むしろ悪魔たちに人種というものがあるのか謎ではあったが)。肩にかかるほどに伸ばされた金髪に真っ赤なルビーを溶かしたかのような瞳。どちらも完全に人外の空気を放っている。極めつけはその病的なまでに冷たい感じの白い肌。