第三章「独りの騎士・孤独の姫」・24
「っ! そうだ、翼!」
掛け軸の下で横たわっている翼に真咲は駆け寄る。その慌て様はシェイドと対峙したときとはまったく別人のもののようだ。
「……ま、真咲?……遅ぇよ」
「ぅん、ごめん……大丈夫?」
「大丈夫そうに見えるか?」
質問に質問で返す翼。
大丈夫そうか? と問われれば……
「問題ないんじゃない?」
「あのなぁ……あいつは斃したのか?」
「うん。……終わったよ」
「そうか」
翼はそう言うと、ぐったりと目を閉じる。
「――って、ちょっと、翼っ」
「五月蝿い。ちょっと休ませてくれ……てか、今になって足が震えてきやがった。ったく、立てねえってのよ」
「……っく」
ついに堪え切れなくなったという感じで真咲が吹いた。そして堰を切ったかのように笑い出す。
「あはは、はははっ」
「……お前なぁ……笑うなよ」
「ははは……だって翼っておもしろい」
「おもしろいじゃねえよ……」
翼はそこで、はっとして目を開く。
「梓はどうした?」
「とりあえず警察と救急車を呼んでもらったわ。安心して、彼女の部屋には結界を張っておいたから、下級悪魔は彼女に近づくことすらできない」
どこか自慢げにそう言う。まあ、真咲がそう言うのなら問題ないのだろうと翼は胸を撫で下ろした。
そうなると一番心配すべきは……梓の父だろう。おそらく一番の重傷者だからだ。
よたよたと這うようにして立ち上がると、翼は頭に歩み寄った。
「頭……」
倉本組の頭は静かに息をしていた。
「……よかった」
「ええ、どうやら無事みたいね、彼も」
「ああ、そろそろ救急車とかも来てくれるころだろうし――」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!」