第三章「独りの騎士・孤独の姫」・22
「やるね……なんで?」
額に汗が浮かんでいた。疲れからではない。冷や汗に近いものだ。
彼の問いに真咲は無言。
「まぁ……いいよ。次で最後だから」
距離を詰めようとしたのか、シェイドが身構えたが、それよりも早く真咲が迫った。
突き出される刀をシェイドは最初からあった鎌の刃で防ぐ。
「っ?」
と、防御されたにも関わらず真咲の口元が不敵に歪む。
真咲は渾身の力を込め、刀を突き出した。交差されていた刀を開放され、黒鎌が弾かれる。
「しまっ――」
絶対的な刀の間合い。
堕天使の刀は両腕を開いた先できらめいた。その手を返しまた交差させるだけで、シェイドの腹部への斬撃を可能とするだろう。防御するには微妙なタイミング。
だが――間に合わないわけではない。
防御できるのは刃だけじゃないんだよっ!
上方に弾かれた刃とは反対側。つまり柄の部分を防御先に回転させる。これで攻撃は防げるはずだ。
「これで……ぇ?」
シェイドの視界には宙に舞う白銀の刃が入った。
ほぼ零距離に近い場所にいる真咲の手には黒い自動拳銃。すでにトリガーにかかる指に力が込められている。
ガゥン……ガゥンガゥン!
放たれた弾丸は死神の黒衣に吸い込まれる。
「ガッ……」
倒れ込むシェイド。真咲はそれを見て片手の拳銃を消した。
「終わりね、シェイド」
ただ無感情に……無表情に……
彼女はそう告げた。
「ま、まさか……そんなに速いとは思ってなかったよ……」
言葉が途切れるたびに口から鮮血が吐き出される。