第三章「独りの騎士・孤独の姫」・19
「……ほんと、変わったよ、真咲はさ。……あ〜ぁ、やっぱ昔に戻れたらいいのにね」
シェイドは鎌を肩にかけると自らの斜め上に視線を向けた。何か、思い出すかのような仕草。遠くを見詰めるその目には哀愁のようなものが漂っている。
「君が指揮官でさ、僕たちは強かった。……だけど、そんな指揮官を疑う者もいた」
今度は真咲が黙っている番だった。黒髪の死神の独白を聞くために。
「そいつらが起こした反乱……それで君ははじめて仲間を、その手で殺めた。その中には僕も含まれたよ。あのときは、憎しみしか起こらなかった。……知ってるかい。君が反乱を鎮めるために殺した悪魔の中には反乱側じゃない悪魔もいた」
長い、長い沈黙の後、真咲は頷いた。
「……知ったわ、全員殺した後でね。弁解しようとは思わない。悪いのは私。復讐の機会はそうして殺した悪魔たちに均等に与えるわよ。今度は……シェイド、あなたの番」
同胞の血に塗れた手……その両の手にある銃を消す。そして銃ではなく刀を顕現させる。
「難なく言うんだな、あなたは……末裔の姫君」
「いちいち演技じみたセリフはいいわ……来なさい」
二人の間にぴりぴりとした緊張感が生まれ、視線が交差する。
「今回は執行官とか、そういう立場も関係ない。僕は僕自身の決着をつけるために……本気で行くよ――黒き死神、参る」
暗く深い声で宣言すると、シェイドの足は地を蹴った。二人の間にあった空間を一瞬で自らの間合いまで詰めると鎌を振るう。