第三章「独りの騎士・孤独の姫」・14
第三章も折り返し地点です。最後までおつきあいのほどをよろしくお願いします。
「〈我は汝を、いつ、どこで、どんな状況であろうとも救うことを誓おう。脆く、か弱い姫君よ、我を欲するとき、盟約のもとに、我を呼び給え〉」
真咲は小さく唱えると、梓の手を、その甲に唇を寄せた。
「えっ?」
一瞬のことに戸惑う梓。きょとん、とした表情を浮かべている。
まるで騎士が王に忠誠を示すかのような仕草をしたからだ。それもどこか毅然とした姿勢で、だ。
ただそれは気休めなどではない。真咲の心からの盟約。契約なんてものじゃない。一つの大切な信頼関係の下に結ばれる約束のようなものだ。真咲もこういうことをすることは自分から見てもめずらしいことだった。それほど、梓にある意味で惚れ込んでいるということなのだろうか。内心真咲は苦笑していた。
「これで、私は梓といつも一緒」
にっこりと笑うと真咲は手を離した。彼女の笑みに誘われ、梓も微笑む。
「ありがとう」
「どういたしまして」
どこか照れたようなはにかんだ笑みを浮かべる梓。
「でも何なの? 盟約って」
「あ……まぁ、いいじゃない、何でも」
曖昧に笑う真咲。
「……ふぅん」
その反応に梓もあまり追求しようとはしなかった。
「……それにしても翼遅いね」
ふと、壁にかけられた時計を見る。十分ほど時間が経っていた。
「そうね。そもそも呼び出すってのもわからないけど」
「うん。お父さんと翼、仲はいいけど……こういうときに話っていうのはめずらしいかも……」
ダン!
家全体が振動する。
突然のことに梓の体がびくりと跳ねた。