第三章「独りの騎士・孤独の姫」・12
「真咲?」
訝しげに梓は表情を歪める。真咲が何を言おうとしているのか、考えているようでもある。
「私がこの世界に来たとき、最初に会った人間の名前……そして、彼女の体が、これ」
そう言い、自らの胸に手を当てる。その手は微かに震えていた。
「え……? それって……」
「うん。私が目覚めて、この世界に来たときに体……つまりは実体を失っているの。それを助けてくれたのが、天城真咲で……もう一人、男の子もいたんだけど……」
そう、それは思い出したくない過去。
二度の死を味わった真咲の過去。
名前と体をくれた少女……
魔力をくれた少年……
彼女たちに助けられたからこそ、今の真咲がここにいるのだ。どれもが封印してきた、押し殺すようにしてきた過去ではあるが。
ただし……
「私の本当の名前は――」
彼女が口を再び開いたとき、続く言葉を梓は制した。
「いいよ。真咲は真咲。今は今でしかないんだから。過去とかは関係ないよ」
声は無理やり出しているように、震えていた。はっとして梓を見ると、大きな目の端に涙が溜まっているようだった。薄く、光る。
「もちろん、真咲の本当の名前とかも。ただね……私が思ったのは、真咲が悪魔だって聞いて……どこか、真咲が遠くの存在じゃないのかって思ったの。記憶を消すって言われて断った一番の理由も、それ。今の話も聞いて、またそう思いそうになっちゃった……」
近くにいた真咲ですら聞き取れないほど小さな、声。
「梓……?」
今度聞き返したのは真咲だった。