第三章「独りの騎士・孤独の姫」・10
「よ」
「元気?」
入室早々二人はそう言った。
梓は部屋に敷かれたふとんで横になっていた。
心なしか顔色は普段より悪そうであったが、
「あ、二人ともどうしたの?」
驚いた表情で起き上がるところを見ると、それほどでもないようだ。まぁ、彼女のことだから無理をしているのかも知れないが、と翼は思った。
「それはこっちの台詞だ。お前が休むなんてめずらしいからな」
翼は部屋の隅にまとめられていた座布団を引っ張って来ると、それに座った。真咲の分もちゃっかり確保している。
「うん、ちょっとね、風邪こじらせちゃったみたいで……」
梓は微苦笑して答えた。
「そうか……和貴は来たのか?」
「うん。今日は午後になったらすぐ来たよ」
「ああ、そういや……」
翼は新明が学校を早退したことを思い出した。
こういう理由だったのか。
「あいつ、意外と抜け目ないな……」
「そうだね。昔から……」
梓はどこか遠い目をして、そうつぶやいた。
「お嬢、よろしいですか?」
インターホンの男――確か名前はケンとかいう――の声が部屋のドア越しに聞こえた。
「はい?」
「頭が、翼さんをお呼びです」
「お父さんが?」
「はい。では確かに伝えました」
ドアの向こうの気配が消えた。
梓は「何で?」という顔で翼を見る。
翼は翼で、さっぱりという表情で首を振る。特に呼ばれる理由などないはずだが?
「とりあえず、行った方がいいな」
「えっと、お父さんの部屋は……」
「いい、知ってるから」
手を挙げて答える。