第三章「独りの騎士・孤独の姫」・9
「……ん?」
「どうした、真咲?」
真咲はどこか、遠くを見るような目をしていた。
「いや……何でもない……と思う」
梓の家はもうすぐ目の前だった。
立派な家で、門まである。敷地は市内でも屈指の広さを誇る。純和風の建物で白い壁が左右に伸びていた。門は大きなものと、その横に通用の小さなものがある。
翼は通用門の前まで行くと、この場とはミスマッチなインターホンを押した。
『はい?』
しばらくして返答がある。
どこか低い相手を威圧するような声色だった。
それも仕方ないと言えば仕方ない。
理由は――
「あの梓さんに会いたいんですが……」
『は? お嬢になんの用ですかい?』
「お、お嬢?」
その言葉の意味することがいまいちわからなかったのだろう。真咲はきょとんとした顔をしている。
「ああ、梓んちは『倉本組』っていう……」
翼は小声で真咲に説明をする。
梓の家はこのあたりでは多少有名な組の頭を勤めている。初めて彼女の家に行ったときは翼も驚いたものだ。なにせ、いかつい顔した『お兄さん』がたくさんいるわけだから。
「なるほどね……そういうことだったの」
「そゆこと。まぁなんの心配もいらないが……」
『おい、何の用だって訊いてんだがな?』
しびれを切らしたような声がインターホンから聞こえた。
「あ、すみません、翼なんですが……」
『え? あ、翼さんでしたか……これはすんません。今お通しします』
急に腰の低い物言いになる相手。
よく口調が変わる相手だと真咲は思った。